2022 Fiscal Year Research-status Report
訴因の特定と証拠・立証構造の関係についてー児童に対する性的虐待事案を中心にー
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22K20090
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 駿登 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (60965771)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 訴因の特定 / 児童虐待 / 司法面接 / 多機関多職種連携 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、子どもに対する性的虐待事案において典型的に観察される証拠・立証構造を言語化・明晰化し、それを踏まえたうえで、訴因の特定の在り方を具体化することを目的としている。これにより、検察官による訴追権限のより合理的な行使を促し、より子どもの利益にかなった事案処理の実現に寄与するとともに、訴因の特定に関する法理論の深化を試みるものである。 初年度にあたる令和4年度は、証拠・立証構造という観点から、幅のある日時の記載をもって訴因の特定が認められている覚せい剤自己使用事案と比較することを通して、子どもに対する性的虐待事案においても幅のある日時の記載をもって訴因の特定を認めることができることについて検討を行い、その成果を「子どもに対する性的虐待の訴因における日時の概括的記載について」と題する論文にて公表した。具体的には、いずれの事案でおいても、尿の鑑定結果や子どもの供述などから、一定期間内に犯罪行為が少なくとも1回行われたことを強く推認することができ、それらの証拠が検察官の主張立証の中心となりうること、及びその証拠が示す期間以上に期間を限定しなくとも裁判所における審判対象の画定や被告人の防禦活動には問題がないことから、覚せい剤自己使用事案において判例・実務上許容されている訴因の特定の在り方が子どもに対する性的虐待事案にも妥当することを明らかにした。これらのことは、従来十分には言語化されてこなかった部分であり、証拠・立証構造と訴因の特定に関する議論を促進するものである。 同時に、子どもに対する性的虐待事案において訴追を困難ならしめている要因についても明らかになったため、その点について、最終年度である令和5年度に調査・研究を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
証拠・立証構造という観点から、比較検討対象である、判例・実務上幅のある事実の記載が許容されている覚せい剤自己使用事案についてその言語化・明晰化し、その内容を踏まえて子どもに対する性的虐待事案についても検討を行い、その成果を公表することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる令和5年度では、これまでの研究成果を踏まえて、子どもに対する性的虐待事案において訴追を困難ならしめている要因について調査・研究を行う。具体的には、子どもの供述の証拠としての信頼性を高める方法や、近い将来行われる法改正に向けて証拠としての許容性について、心理学等の知見を参照しながら調査・研究を行う。また、その研究にあたっては、実際の捜査・訴追の在り方にも十分に配慮しつつ、理論的側面からの分析を行う。 また、事案によっては、子どもの記憶・供述の特徴ゆえに、覚せい剤自己使用事案との類似性を認めることが困難な場合もありうることも明らかになったため、そのような事案における訴因の記載の在り方についても調査・研究を行う。その際には、諸外国における法実践も参照する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染の状況等を受け、想定したよりも出張回数が少なくなったため、繰り越しが生じた。 海外における調査等の必要も生じてきたため、次年度においては海外における調査の実施も検討する予定である。
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