2023 Fiscal Year Annual Research Report
司法取引と「えん罪」防止―最新のアメリカ心理学における知見を踏まえてー
Project/Area Number |
22K20103
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
清水 拓磨 立命館大学, 法学部, 准教授 (50961926)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 自己負罪型司法取引 / 弁護人の役割 / 量刑格差 / 虚偽供述の防止 / 誤判・冤罪の防止 / 有罪答弁制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、第一に、昨年度に続き、弁護人による助言が自己負罪型司法取引による虚偽供述を防止しうるかにつき検討した。アメリカの弁護士に対してインタビュー調査を実施した結果、①弁護人は依頼人の言葉を信じて訴訟を進めるしかなく依頼人の罪責を必ずしも判断していないこと、②弁護人が依頼人の無実を信じても、トライアルのリスクを恐れて、取引に応じるよう勧めることがあること、③多くの法域では、公設弁護人の仕事量が多く、すべての事件をトライアルで扱うことができないこと(なお、ワシントンD.Cではそうではないこと)が明らかとなった。この結果は、弁護人の助言が自己負罪型司法取引による虚偽供述を必ずしも防止できないことを示唆するものと思われる。 第二に、量刑格差の制限がアメリカにおいて機能しているのかにつき調査した。前述の弁護士に対するインタビューの結果、量刑ガイドラインによって量刑格差の制限は機能している面もあるが、起訴取引によって潜脱されるおそれがあることが明らかとなった。起訴取引による潜脱が可能なのは、検察官に広範な訴追裁量を認めるからであり、訴追裁量を制限しない限り、この問題を抱えることになる。日本においても検察官に広範な訴追裁量権が認められることから、この点を制限しない限り、量刑格差の制限は困難である。 第三に、有罪答弁制度が合理的な疑いを超えた証明原則に反しないかにつき検討した。近時のアメリカでは、この原則に反するおそれがあるという指摘がある。有罪答弁の本質が権利放棄にあるとはいっても、従来、日本では、被告人の意思によって、合理的な疑いを超えた証明を不要とすることはできないと考えられてきたから、この理解を前提にすると、有罪答弁制度の導入は許されないといえよう。
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