2022 Fiscal Year Research-status Report
エスノナショナリズムの経済的起源ーボスニアの民族主義とパトロネージ政治
Project/Area Number |
22K20113
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
田中 聡 立命館大学, 国際関係学部, 嘱託講師 (00965741)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 民族政治 / ナショナリズム / 政治経済学 / クライエンテリズム / ボスニア・ヘルツェゴビナ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、民族主義的な政治行動の経済的起源の解明を試みるものである。従来、民族紛争や民族暴動、分離独立運動、民族主義政党の台頭など、民族的な政治行動の原動力は人々がもつ民族的アイデンティティに起因すると考えられてきた。これに対して本研究では、政治家が市民に対して選挙時の支援と引き換えに公的な資源を優先的に分配する「クライエンタリズム」に着目し、民族政治とクライエンタリズムの交差点を探ることにより、政治経済学の観点から民族が持つ政治的動員力を探る。その際、ボスニア・ヘルツェゴビナを事例に、民族主義政党がどのような社会的条件下でパトロネージを用いた支持調達を図るかを検証する。特に1. 民族のコミュニティ形成のあり方がパトロネージ政治に与える影響、2. 民族主義政党がパトロネージによる支持調達を図る産業構造的要因を、ボスニア現地での民族誌的調査、現地新聞を用いた文献調査、企業統計データを用いた定量的分析から検証する。 課題初年度である2022年度はボスニア・ヘルツェゴビナへと渡航し現地調査を行なった。調査では、首都サラエボに加えて、ゴラジュデ、ゼニツァ、テシャン、トゥズラといった地方都市へと訪れ、町のイマーム宅でのホームステイ、政党による政治イベントの見学、また町の政治家や経済局の担当職員へのヒアリングを行なった。調査を通して、紛争後のボスニア政治において民族主義政党が支配的にあり続ける経済・産業的な構造の解明に向けた仮説構築とその実証のための資料収集を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度はボスニアへと実際に渡航し、現地調査を行うことができた。滞在期間中には、地方都市の政治家や経済局の担当職員へのヒアリング調査を実施し、各都市における経済産業政策の実施状況とその政治的背景について調査を行うことができた。加えて、民族の生活様式がクライエンテリズムのあり方へとどのような影響を与えているのかを調査するべく、町のイマームの自宅に一定期間滞在し、その町の人々の生活様式を調査することができた。また、ボスニアでの滞在期間中にはサラエボ大学政治学部の研究者と面会し、研究についての意見交換も行うことができた。この間、しばらくは現地へと渡航できていなかった中で3年ぶりに現地調査を行い、現地でしか得ることのできない資料を収集することができ大きく研究が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、ボスニア・ヘルツェゴビナにおいて民族政党が支持を受ける経済・産業的構造の定量的分析に向けて、データの収集・整理と分析に取り掛かる。また、デジタルアーカイブ化されているボスニアの現地新聞へとアクセスし、ボスニアの産業政策についての定性的分析に向けた資料の収集・整理と分析を行う。加えて、再度ボスニア現地へと渡航し、昨年度の調査で訪問できなかった地方都市へと訪れる中で町の政治家や経済局の担当職員へのヒアリングを行う。また、その中で、昨年度の現地調査を通して得た資料を学術論文としてまとめ、国際誌への投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
ボスニア現地調査の渡航費が所属する研究機関の会計処理の関係上、次年度会計となったため。
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