2022 Fiscal Year Research-status Report
2010年代の南米チリにおける社会運動と運動政党の発展と相互関係に関する研究
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22K20125
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
三浦 航太 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターラテンアメリカ研究グループ, 研究員 (50964285)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | チリ / 社会運動 / 学生運動 / 政党 / 運動政党 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、主に3つの作業を進めた。第一に、社会運動の活発化と運動政党の台頭の背景となる、1990年の民主化以降のチリのマクロな政治・社会状況の変化について、各種統計資料・指標、世論調査などを用いながら把握することに努めた。第二に、運動政党がどのような社会運動組織(特に学生運動組織)から生まれ・変化・発展してきたのか、その人的・組織的な起源と、変化・発展のプロセスについて明らかにすることを目指した。具体的には、チリの新聞記事や学生運動の組織資料を収集し、起源となる人物・組織を特定し、その人物の言動、組織の変容を追った。また、源流となる社会運動組織を立ち上げ、現在運動政党のイデオローグとされる人物に対するインタビューも実施し、その思想的背景や、運動政党に至るまでの関わりについて聞き取りを行った。第三に、社会運動と運動政党の協力関係について、新聞記事を用いていかなる局面でいかなる協力が行われているのか、事実の整理を行った。さらに、抗議行動に関するイベントデータを用いて、抗議行動における運動政党による動員や社会運動組織との関わりについて探った。
上記の3つの作業から明らかにした内容の概略は次の通りである。民主化に際して既存政党と歩調を合わせた主要な社会運動組織に対して、既存政党とは異なる新しい政治社会経済モデルを志向する一部の社会運動組織が、2000年代に学生運動を通じて勢力を拡大させ、2010年代には政党へと転化させた。政党への転化に際しては、組織内部の異なる世代間の影響や協力が重要な役割を果たしていた。活発化する社会運動との連携を維持しながらも、シンクタンクを立ち上げることで政策的基盤を確保・強化しつつ、選挙制度改革によって開かれた国政進出の機会を活かし、既存政治に不満を持つ人々へのアプローチも行う形で、政党として成長を遂げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで自身が実施してきたチリの学生運動・社会運動やチリの政治・社会に関する研究基盤を生かしながら、新たに統計資料、世論調査データ、新聞記事、社会運動組織(特に学生運動組織)資料の収集と分析を進めることができた。それに加えて、中心的役割を果たす人物へのインタビューも実施することができた。2022年度中に行う予定であった現地調査が実施できなかったことが、予定とは異なったものの、2023年4月に実施したことで遅れを取り戻しており、概ね予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究課題は主に2つである。第一に、政党を志向する背景を探るということにある。2022年度の研究の中では、社会運動組織から政党への変化を追うことに注力してきたが、なぜ社会運動という非制度的な政治参加を行う人々が、政党という制度的な政治参加の組織を求めるのか、ということである。もちろん、非制度的な政治参加の限界の認識もあるが、社会運動組織(特に学生運動組織)内部を見ると、言わば政党政治のような形で組織運営がなされており、意思表出・集約のための政党の必要性を社会運動の経験を通じて認識しているのではないかと考えられる。
第二に、より広範な人々の関わりや認識を探るということにある。2022年度の研究の中では、主として源流となる社会運動組織から今日の運動政党に至るまで中心的な役割を果たしてきた、言わば市民社会エリート・政治エリートにのみ着目してきた。しかし、組織としての維持や発展のためには、人々の関わりの維持や拡大が必要であり、この部分を明らかにすることによって、より説得的な分析になると考えられる。
これらの研究課題について、引き続き新聞記事や各種資料での分析を行うと同時に、現地調査ないしオンラインでのサーベイを行うことによって明らかにすることを検討している。分析結果については、学会発表を通じてブラッシュアップを図ると同時に、論文形式での成果発表を目指す。
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Causes of Carryover |
2022年度中に予定していた現地調査が、新型コロナウイルスなどの影響もあり実施できなかった。ただし、この分の現地調査については2023年度4月に実施済みである。
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