2022 Fiscal Year Research-status Report
Religion and economic behaviour of households, firms and groups in India
Project/Area Number |
22K20135
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山本 明日香 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (20962856)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | インド / 宗教 / 相続 / 教育 / 健康 / 賃金 / 格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度に口頭発表・論文投稿を行った研究は次の2つである。 研究1では、相続権改革(ヒンドゥー教徒相続法の改正)が、家計資源の世代間移転の枠組みの変化を通じて、ヒンドゥー教徒、シク教徒、ジャイナ教徒、仏教徒の女性の人的資本に与える影響を検証した。その結果、相続権改革が行われた州の土地所有世帯主のヒンドゥー教徒などの娘は、教育および健康状態の人的資本指標を改善したことが明らかになった。プラセボ回帰分析と改正のタイミング別の分析で結果の頑健性を検証している。前者では、イスラーム教徒とキリスト教徒からなるプラセボ・グループの人的資本指標に統計的に有意な改善は見られなかった。後者では、1994年に相続権改革を経験したカルナータカ州とマハーラーシュトラ州の結果が、主要な結果に最も寄与していた。 研究2では、インドの社会的弱者層(ヒンドゥー教徒の指定カーストおよび指定部族(SCs/STs)とイスラーム教徒)に着目して宗教間賃金格差の要因分解を行い、その構造の変化を明らかにした。分析の結果、賃金格差の要因として重要なのは教育レベルおよび労働市場における経験年数の属性格差であった。また、2000年代半ば以降、教育レベルの属性格差の寄与度の正負が逆転し、SCs/STsの指標の改善からイスラーム教徒が取り残されていることを明らかにした。これは、高等教育への進学や公的機関への就職における制度的な不平等が、社会的弱者層の中で更なる格差を生じさせている可能性を示唆する結果である。 本研究課題全体の目的は、個人の宗教性が経済に与える影響と、経済発展が個人や団体の宗教性に与える影響の双方を実証的に分析することであるが、これらの研究は、いずれも家計に焦点を当てたものである。2023年度は、団体や企業の研究に研究範囲を拡張する予定であり、既に先行研究や資料収集、データの整理に着手している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度中は、博士論文をもとにした研究論文の精緻化および査読付き雑誌への投稿に力を入れた。博士論文の序章に加筆修正した論文は、2023年3月に「インドの宗教と「宗教の経済学」(Economics of Religion):現状と展望」として、神戸大学経済経営研究所の紀要論文である『経済経営研究(年報)』第72号に掲載された(博士課程在籍時の指導教員である、佐藤隆広神戸大学教授との共著)。その他、インドにおける相続権改革と女性の人的資本に関する研究と、インドの社会的弱者層に着目した宗教間賃金格差の研究に関する論文を、それぞれ海外ジャーナル、国内学会誌に投稿中である(いずれも単著)。また、期間中に行った研究報告は、これらに関係するものである。 次なる研究のため、いくつかのデータの整理を行った。具体的には、NGOs India(https://ngosindia.com/ngos-of-india/)から全ての団体の情報をスクレイピングした。今後活動場所や目的、連絡先などを整理し、調査・研究に使用する予定である。また、消費者物価指数(都市工業労働者、農村労働者、農業労働者)のデータを整理し、長期間の繰り返しクロスセクションデータに含まれている賃金・給与所得などをデフレートして使用できるようにした。 2022年3月には、コロナ禍で長らく中断していた現地調査を再開した。パンジャーブ州の農村で、女性の相続権と世帯内での役割等について聞き取り調査を行い、研究の一環としてシク教の聖地であるハリマンディル・サーヒブを訪問した。滞在中はインド工科大学デリー校やパンジャーブ農業大学の研究者らと交流し、意見交換を行った。現地の研究者らとは帰国後も連絡を続けており、今後も引き続き研究における協力関係を構築していく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は博士課程までの研究の精緻化に注力してきた。引き続き、査読プロセスの進行に対応する形で研究の精緻化や論文の修正を行うが、2023年度は本格的に新しい研究に移行する予定である。本研究課題は、宗教と経済の双方向の関係を検証することと、労働市場と財・サービス市場の需要側と供給側の双方に焦点を当てることを目的としている。したがって、家計だけではなく企業や団体に着目した研究も行う必要がある。このうち、NGOなどの団体の行動に関する研究、インドにおける相続権改革が女性の収入(賃金・給与所得など)に与える影響に関する研究の2つについては既に着手している。 団体の行動に関する研究については、既にNGOs Indiaからスクレイピング済みのNGO団体の情報を8月頃までに整理し、紀要論文等の形で日本語論文にまとめる予定である。また、同時並行的に質問票の内容を検討し、年内を目標にメールで各団体に送付する。相続権改革と女性の収入に関する研究は、2022年度に注力した研究と部分的に問題意識や手法(Triple-difference)、データ(インド全国標本調査)を共有しているが、これまでの研究では制約により使用できなかった手法も使いたいと考えている。5~6月には基本的な分析結果を得られる予定である。得られた結果について、最終的にはいずれも論文にまとめ、英文査読付きジャーナルに投稿する。 その他、可能であれば企業経営者の宗教的属性が経営範囲や雇用、事業内容などの経営戦略に与える影響に関する研究と、博士論文の一部である巡礼と支出に関する研究の精緻化を行いたいと考えている。 また、夏と冬の授業期間外に、インドでの現地調査を予定している。2023年度の研究に関係する調査、具体的にはNGO団体の訪問調査や農村での聞き取り調査、宗教的な巡礼地や聖地などへの訪問を検討している。
|