2022 Fiscal Year Research-status Report
家事のジェンダー不平等生成メカニズムの再検討:家事スキルの蓄積プロセスに着目して
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22K20191
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
柳下 実 佛教大学, 社会学部, 講師 (00963604)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 家事労働 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究課題の核心をなす学術的「問い」は,第一にライフコース初期の学校教育における男女の家事スキル形成と家事遂行が関連するのか,第二にその家事スキルがライフコースを通して男女間で拡大するのか,および家事人的資本の蓄積の差が家事分担の男女差を説明するのかであった。実証分析では,ライフコース初期の学校教育が男女の家事スキル形成と家事遂行にどのように影響するのかを明らかにするため,家庭科共修化が家事時間に与える影響を検討した(研究課題①).本研究では日本を代表する生活時間調査であり,家事時間を詳細に分析できる社会生活基本調査を利用し,共修化前コホートとくらべ,共修化後コホートでは男性の家事時間が長いのかを検討した.先行研究で観察された,家庭科教育が共修化後の男子高校生の家事遂行を増加させるというジェンダー平等化の効果が,10代・20代・30代とライフコースにわたって持続するのか検証した. 現在分析中であるが暫定的な結果としては、家事時間にかんしては共修化が男性の家事時間を増加させる効果はないか、もしくは非常に小さいことが明らかになった。ただし、分析に用いた回帰不連続デザインについては、手法に結果が依存していないかを検討する必要がある。また、この結果は家事スキルの蓄積が男性の家事時間増加に必要だとする議論に対して疑問を呈するものであり、家事スキル以外の要因に着目する重要性を示唆するものである。これらの結果については、2023年度にアメリカ社会学会大会で報告する予定である。なお並行しておこなっていた家事労働にかんする共同研究において、査読論文が一本、また日本社会学会大会や家族社会学会大会などでの報告を通して、家事や生活時間についての研究を前進させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れていると評価した理由は、社会生活基本調査のデータ入手に想定していたよりも時間がかかったためである。2022年度に匿名データを入手し、分析に利用できるようデータを整備することができた。オンサイト利用についても、利用申請しデータを利用できる状況にはある。ただし、オンサイト利用にかんしては想定していたよりも、プログラムの持ち込みや、データ分析環境、分析結果の持ち出しなどにかんする事務処理が煩雑であり、研究遂行の阻害要因となっている。2022年度におおむね研究環境を整えることができたため、2023年度はそれらを活用して研究を進めることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針については、Beckerの人的資本理論や社会学的な議論(Devault 1991; West & Zimmerman 1987)を詳細に検討し,家事人的資本の蓄積プロセスを理論的に示すとした全体を統括する理論的検討がまだ十分にはおこなえていないため、理論的検討をおこなう。また研究課題②として、家事スキルがライフコースを通して男女間で拡大するのか,また家事人的資本の蓄積が家事分担の男女差を説明するのかを明らかにするため,社会生活基本調査を用いて,結婚前の家事スキルの蓄積の男女差および,それと結婚後の家事分担との関連を分析することを予定している。本年度は、これらの研究を推進する。オンサイト利用の問題については、他の研究者とも相談しており、統計法33条申請の調査票情報利用に切り替え、より研究遂行を円滑にすることを目指す。
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Causes of Carryover |
年度末をまたぐが研究の円滑な促進のため科研費の前倒し請求をおこなった。そのため、次年度使用額が生じている。来年度は海外学会での発表などや研究補助員の雇用、さらなる研究環境の構築を予定しており、それらに使用する予定である。
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