2022 Fiscal Year Research-status Report
福島第一原発事故超長期避難における生活課題と支援に関する実証的研究
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22K20196
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
望月 美希 静岡大学, 情報学部, 助教 (50868007)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 福島第一原発事故 / 長期・広域避難 / 避難者支援 / ふるさと |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は9月より研究費交付が始まったため、①これまでの研究成果(大堀相馬焼の復興に関するインタビュー調査)を踏まえた論文執筆と②静岡県内の避難者および支援団体の調査を主に進めた。対象地を首都圏から主に静岡県へと展開したのは、大学が立地する地域社会と連携した研究活動・研究成果による社会的貢献を図るためでもある。現地調査に関しては、2022年6月より開始し参与観察を継続している。 ①に関して、長らく帰還困難区域となっていた福島県浪江町大堀地区(2023年3月に一部解除)における伝統作業「大堀相馬焼」の窯元への調査をもとに、原発事故による超長期避難生活における避難者とふるさととの関係をまとめた。ここでは、大堀相馬焼という伝統産業を避難先で継続することでふるさととの繋がりを保つ一方、避難生活下ではそれが部分的にしか保つことができないことの避難者の苦悩が明らかとなった。 ②に関して、静岡県における原発事故避難者の現状と支援の課題について調査研究を行った。特に静岡県内で行われてきた支援活動について、活動に至る経緯、原発事故から10年以上が経過した現在に至るまでの活動状況や避難者および支援者の状況についてインタビュー調査を行い、支援者側の視点からみた静岡県内避難者の状況と支援の課題について明らかにすることを目的とした。ここから1)避難生活の超長期化において、避難者の生活状況には常に「ゆれ」があり、避難者を捉える際に一面化・固定化は避けなければならないこと、2)避難者は地域社会へ溶け込んでいくものの、「避難してきた者同士だからこそ話せる場」も引き続き求めていることが明らかとなった。一方、3)超長期化における主な支援ニーズが避難先=静岡県内での生活に関するものであるが、国や県による支援活動の枠組みが「帰還支援」として行われていることが支援のジレンマであることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、①これまでの文献研究を踏まえた論文執筆と②静岡県内の避難者および支援団体の調査を進めた。①に関しては本研究課題の研究期間の開始前までに行っていた浪江町大堀相馬焼に関する調査のまとめとして論文執筆を行い、既に脱稿し出版準備中である(『新環境学講座』第3巻に収録予定)。②に関しては、静岡県内における調査を進め査読付き論文として刊行済みであり、学会での成果発表も予定している。 また、研究計画にある理論的な考察、理論構築に関しても並行して進めており、日本社会理論学会研究例会での報告では、ルフェーブルの空間論を用いて、復興における人と土地との関係性についての議論を展開した(本報告に関しては2023年度に招待論文として執筆予定である)。 以上のように2022年度の研究・調査は、半年という帰還のなかで既に4件の学会報告(予定1件含む)、3本の論文執筆(出版準備中1件含む)に繋がっており、順調に進展していると言える。研究成果の国外への発信についても、2023年6月開催予定の国際学会での報告要旨が受理され発表予定であり計画的に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
大堀相馬焼に関する調査研究に関しては、2023年3月に浪江町大堀地区の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されるという社会状況の変化があったため、これまでの対象者に再度のインタビュー実施を予定している。また、現時点でインタビューを行っていない対象者(大堀相馬焼の窯元、浪江町への帰還者)についても、引き続き調査を進めていきたい。 避難継続者と支援に関する調査は、2022年度は静岡県の調査を中心的に行ったが、当初の研究計画に提示したように、現在も避難者が全国のなかで最も多い東京都における調査も進める。 これらの調査結果を踏まえた理論構築に関しては、現在、移動研究(モビリティーズ・スタディーズ)や、土地と人との関係に関する考察論文(招待あり、2023年度中に脱稿予定)を執筆している。災害等による人々がある土地(land)と強制的に引き離されたときそこで何が喪失されるのか、H.ルフェーブルの空間論等を参照しながら考察を進めている。その他、成果発表に関する展望として、海外への研究成果の発信と研究交流にも力を入れたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症流行の影響により、引き続きオンライン開催となる学会、研究会が多く、予定よりも出張費の支出が少なかったことから、当初の計画と現時点での執行額に差が生じた。次年度は、学会が対面開催に切り替わること、夏季には比較的長い期間での現地調査(東京都、福島県等)を予定しているため、研究機関全体を通じては概ね計画通りの予算執行となると考えている。
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