2022 Fiscal Year Research-status Report
ダイバーシティ施策が企業の女性管理職比率に与える効果の検証
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22K20208
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
吉田 航 国立社会保障・人口問題研究所, 情報調査分析部, 研究員 (70962992)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ダイバーシティ / 女性管理職 / 組織 / 企業パネルデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ダイバーシティ施策の実施が、企業の女性管理職比率に与える効果を、国内大企業のパネルデータ分析から明らかにすることである。具体的には、施策を(a)両立支援策、(b)「働き方改革」関連施策、(c)目標開示や専任部署の設置の3つに分類し、施策導入の効果や、組織内外の文脈に応じた効果の異質性を解明することを目指す。 本年度は、分析の前段階にあたるデータの整備を進めるとともに、(c)専任部署設置の効果を検討した。 分析には、株式会社東洋経済新報社が調査・公表している、「CSRデータ(雇用・人材活用編)」を用いた。これは、同社が上場企業などを対象に年1回実施している調査であり、社風など短期間で変化しにくい企業特性を考慮した分析が可能になる点で、施策の効果を検証する本研究の目的に適している。これを、同社が提供する財務情報とマッチングすることで、本研究で用いるデータセットを構築した。 このデータを用いて、(c)ダイバーシティ推進を目的とする専任部署の設置が、その後の女性管理職比率に与える効果を検討した。英語圏の研究では、担当部署の設置が管理職の多様性を高めることが指摘されているものの、日本でもこの知見が当てはまるかどうかは定かではない。2008~2016年度における大企業について分析したところ、部署の設置はその後の女性管理職比率を高めるとはいえなかった。これは、企業がステークホルダーからの正統性を獲得するために部署を設置しており、必ずしも雇用行動の変化とは結び付いていない可能性を示唆する。ただし、女性役員比率が一定水準を超える企業では、部署設置によって女性管理職も増加しており、経営層の働きかけが、部署の効果を左右する可能性も示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、データの整備、および(a)両立支援策、(b)「働き方改革」関連施策、(c)目標開示や専任部署の設置の3点について、その効果を検証することを予定していた。 このうち、データの整備と(c)については、想定していた成果をあげることができた。とくに、部署設置について、単にその効果を明らかにするだけでなく、組織内の文脈に応じて効果が異なることを示した点は、実証的・理論的な意義も大きいと考えている。この結果は査読論文として投稿し、現在審査を受けている段階である。 一方で、(a)(b)については、本年度中に分析を進めることができなかった。しかし、これら2つについては、女性管理職比率のみならず、外国人・障害者雇用もアウトカムとして設定した研究課題を設定し、施策の効果を比較する研究課題の遂行を来年度前半に予定している。 こうした進捗状況を踏まえ,達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も、各種のダイバーシティ施策が企業の女性管理職比率に与える効果の検証に取り組む。とくに、(a)両立支援策と(b)「働き方改革」関連施策の2点について、分析結果をまとめ、国内・国際学会での公表、あるいは海外の学術雑誌への投稿を目指す。 さらに、企業パネルデータを用いて計量分析を行う方法の検討も進める。パネルデータ分析は、近年方法論的な発展や再検討が進んでいる分野であり、企業単位のパネルデータも例外ではない。より精緻な手法の応用や、分析の前提を再検討する作業を通じて、企業データの分析における方法論的な貢献も目指す。
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Causes of Carryover |
分析に用いる大規模なデータセット(CSRデータおよび役員四季報)の追加購入を予定していたが、本年度には購入に至らなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度には、これらのデータ購入、および海外研究者との共同研究に際しての旅費・滞在費に、翌年度分として請求した助成金と合わせた額を使用する予定である。
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