2022 Fiscal Year Research-status Report
子どもと教師が学びの意味を共創する地理カリキュラムの開発研究
Project/Area Number |
22K20231
|
Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
宅島 大尭 大阪産業大学, 全学教育機構, 講師 (40964250)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | 共創 / 地理教育 / 市民性教育 / 学習者の声 / 共同エージェンシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、子どもと教師の双方にとって、学ぶ意味を伴った市民性教育としての地理カリキュラムを共創するための方略を提案することである。地理教育においてこれまでに提案されてきたカリキュラムの多くは、地理を学ぶことの意味や学習目標は、教師から子どもに与えられることが前提となっていた。これに対し、本目的を達成するために、教師が独占していた学習目標・内容・方法・評価に関する権限を段階的に子どもたちに移行する授業実践を試みる。2022年度は、二つの調査校(高校)において、学習目標あるいは学習評価に関する権限の移行を試みた。 2022年度の研究成果の意義は大きく次の二つである。第1に、学習目標に関する権限の移行について、「問いづくり」の授業という具体的な実践をできたことである。子どもたち自身が単元をとおして追究したい「問い」をつくるという授業を、試験的ではあるが継続して実践することができた。第2に、学習評価に関する権限の移行について、定期考査問題の「作問」に関わった子どもたちの「声」を明らかにできたことである。子どもたち自身が学習評価に関する課題の作成に参加することが、地理的な認識や、見方・考え方だけでなく、子どもたちの学びのレリバンスを保障し、地理学習に真正性をもたらす可能性が示唆された。 子どもたちは、必ずしも教師が意図するとおりには学習を進めていない。そのような中では、教師や研究者のみで「良い」授業を構想あるいは実践することには限界がある。教師が教室全体に対していかに「良い」地理学習を提供するかではなく、教師と多様な知識や経験、考えをもつ子どもたちがいかに「良い」地理学習を共創できるかという視点の転換に、本研究の重要性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大きくは次の3点の理由がある。 第1に、学習目標に関する権限の移行を試みた教室において、教師に対する6回(約5時間)の聞き取り調査を行うことができたことである。聞き取り調査は2023年3月まで実施し、その記録についてはすべて文字起こしが完了している。分析は現在進行中であるが、権限の移行に伴う教師の葛藤が浮かび上がりつつある。2023年度中に、学会発表および学会誌への投稿による成果の報告を行う予定である。 第2に、学習評価に関する権限の移行を試みた教室において、子どもたち全員に対する質問紙調査および、5名に対する聞き取り調査を行うことができたことである。教師とともに子どもたち自身が学習評価に主体的に関与することの意義と課題が明らかになりつつある。その成果は、学会での発表1本、学会誌への投稿1本(査読中)としてまとめることができた。 第3に、2023年度の人事異動および校内人事により、当初の計画に修正箇所が生じていることである。実践協力者のうち、2022年度に学習評価に関する権限の移行についての実践を行った1名が行政機関への異動により、教室での実践ができなくなった。また、残る2名ともに第3学年の担当に配属されたことにより、本研究に関する授業実践を行うことができるのは、2023年10月ごろまでとなることが想定される。当初の予定よりも実践に関するデータを収集できる期間が短くなった。 これらの点を考慮し、「やや遅れている」と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度の研究成果をふまえ、2023年度は、第1期(2023年4月~7月)、第2期(2023年8月~10月)、第3期(2023年11月~2024年3月)に分けて、以下の調査・研究を実施する。 第1期には、2023年度の第1次アクションリサーチを実施する。二つの調査校において実施する授業の単元計画を、実践者と協働してそれぞれに開発・実践する。二つの教室では、学習目標・内容・方法・評価に関する権限をどのような形で、どこまで子どもたちと共有することができるのか。そうすることが、市民性教育としての地理教育にどのような影響をもたらすのか。これらの問いを念頭に、二つの教室における継続的な授業観察とともに、教師および子どもたちへの聞き取り調査を行い、第1次アクションリサーチの成果と課題を把握する。 第2期には、第2次アクションリサーチを実施する。再度、単元計画を実践者とともに開発・実践する。第1次アクションリサーチと同様に、授業の継続的な観察と、教師および子どもたちへの聞き取り調査を行う。これらをとおして、子どもと教師の双方にとって、学ぶ意味を伴った市民性教育としての地理カリキュラムを共創するための、教師と子どもたちの役割を究明する。 第3期には、本研究の総括を行う。具体的には、2年間の授業実践の蓄積に基づき、地理カリキュラムを共創するための視点や、授業づくりのためのデザイン原則をとりまとめた素案を作成する。それらを基に、2024年度に実施予定の第3次アクションリサーチを具体化したい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の感染拡大により、当初予定していた三つの高校への各3回の訪問調査のうち、二つの高校への訪問を2回しか行うことができなかった。それにより、次年度使用額が生じた。 そのため、感染症に関する制約が緩和されることが予想される次年度には、訪問調査の回数を増やすとともに、聞き取り調査や文字起こし等に係る経費として使用していく。
|
Research Products
(2 results)