2022 Fiscal Year Research-status Report
公民教育における法的思考と交渉技能を育成する法教育カリキュラムの構築
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22K20242
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小貫 篤 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (60965375)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 法教育 / 交渉教育 / 交渉技能 / 法的思考 / 法構想 / 公民教育 / 紛争解決 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的は、法的な価値を社会事象に適用する法的思考と、紛争解決のための実践的な交渉技能の両者を合わせて育成する教育について、教育目標・教育内容・教育方法の各方面から体系的に検討し、系統立った法教育の教育課程を構築して検証することである。1年目にあたる今年度は、以下の3点に関して研究を進めた。 第1に、本研究の基盤となる生徒の実態調査を行った。具体的には、法的思考や交渉技能を活用する際の認知バイアスをどの程度持っているのか東京都内の国立大学附属高等学校で質問紙調査を行った。その結果、法的紛争に直面した際、多くの生徒が固定資源知覚、アンカリング、代表制ヒューリスティック、フレーミングといった認知バイアスを持っていることが明らかとなった。 第2に、法的思考学習、交渉技能学習、法構想学習の3つの学習を系統的に結び付けるためのモデルを検討した。具体的には、自主的な取り決めや私的な交渉で合意を形成して紛争を解決していくインフォーマルな法機能である「自治型法」、典型的な法類型で近代法の権利義務や要件効果といったいわゆる法的な思考様式を用いて裁判を行い、具体的事例ごとに法を適用して紛争を処理するという法の機能である「自立型法」、行政法や経済法のように、特定の政策目標の実現の手段として紛争を解決する法機能である「管理型法」からなる「法の三類型モデル」をカリキュラム構築のモデルとして採用することとした。 第3に、交渉技能学習を開発し、実践を行った。具体的には、中学高校対抗交渉コンペティションの問題を作成し大会を主催した。本コンペティションには全国から7校、審査員・運営として法学研究者・実務家や教育学研究者・教員23名が参加した。作成した内容、新型コロナウィルスによって影響を受けたネットショップと運送業者の商取引に関する交渉である。時事的な問題であり、中高生の交渉意欲の向上がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した理由は、以下の3点である。 第1の理由は、交渉技能学習、法的思考学習、法構想学習を系統的立ててカリキュラムを構築するためのモデルが明らかになったためである。そのモデルである「法の三類型モデル」に基づいて、法教育カリキュラムを構築することができる。一方で、「法の三類型モデル」にどのように交渉技能学習、法的思考学習、法構想学習の授業を位置づけていくのかという点について不明確であるため、今後の研究が必要である。 第2の理由は、交渉技能学習を開発し、実践することができたためである。交渉技能学習として交渉コンペティションの問題を作成し実践するという当初の計画通り、実施することができた。2年目は、1年目とは違う交渉技能学習を開発し実践する必要がある。また、実践の分析も必要である。 第3の理由は、法構想学習の授業構成を開発することができたためである。授業開発を行うためには、まず授業目標・内容・方法を一体的に捉えて授業の段階を表す授業構成を開発する必要がある。法構想学習においては、法政策学と公共政策学の知見を援用して、5段階の授業構成となった。即ち、「Ⅰ.紛争の概略を把握する段階」→「Ⅱ.交渉技能や法的思考を活用して分析する段階」→「Ⅲ.法や制度を見直し,構想する段階(Ⅲ-1.問題設定、Ⅲ-2.構想、Ⅲ-3.予測・評価)」→「Ⅳ.社会に提案する段階(Ⅳ-1.議論、Ⅳ-2.提案)」→「Ⅴ.学習を振り返る段階」の5段階である。2年目は、この5段階に基づいて授業を開発・実践・分析することとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2年目は、当初の計画通りに進めることとする。即ち、以下の4点に留意しながら研究を進める。 第1に、「法の三類型モデル」にどのように交渉技能学習、法的思考学習、法構想学習の授業を位置づけていくのかという点を明確にする。法の三類型モデルに基づいて3つの授業開発・実践をした上で、法の三類型モデルを公民教育として批判的に検討し修正する。 第2に、交渉技能学習の授業を開発し実践する。1年目と2年目で違う交渉コンペティションの問題を作成し、実施・分析することで、より交渉技能を育成するのにふさわしい問題を明らかにできる。その上で、交渉技能学習の授業構成を明らかにする。また、認知バイアスを考慮した交渉技能学習のあり方についても検討を進める。 第3に、1年目に開発した授業構成に基づいて法構想学習を実践し分析をする。民事紛争、行政訴訟に関する法構想学習を実践し、分析を行う。 第4に、1年目に開発した法的思考学習の授業を実践し分析をする。刑事事件や生命倫理に関する法的思考学習を実践し、分析を行う。 以上4点の研究を進めることで、公民教育における法的思考と交渉技能を育成する法教育カリキュラムを構築する。更に、その研究成果を広く社会に発信することで法教育の充実発展に寄与する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、法的思考学習や法構想学習を開発したり、研究協力校で実践したりする際に使用する予定であった謝金が発生しなかったためである。謝金が発生しなかった理由は、研究協力校の教員が校務分掌の関係で本研究への協力が困難となっていたためである。 使用計画は、研究協力校の教員の2023年度の校務分掌が変化したため、本研究への協力が可能になっている。そのため、2023年度は研究協力校での授業開発・実践にあたって、協力してもらう教員へ謝金を支払う予定となっている。
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Research Products
(9 results)