2022 Fiscal Year Research-status Report
政策形成過程の分析を通した大学入試の共通試験制度の成立要因に関する政治学的研究
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22K20269
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
中村 恵佑 弘前大学, 教育学部, 助教 (10963960)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 大学入試 / 能研テスト / 政策過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度(2022年度)は、能研テストの政策過程に関する資料収集(中央教育審議会や経済審議会の答申・議事録等、国立公文書館所蔵の能力開発研究所の内部資料、国会議事録、国立大学協会発行の会報、新聞・雑誌記事等)を行い、これらを基に、国立大学が能研テストの実施にどう対応したのかを分析した。結果、国立大学協会としては、当時の大学入試に関する問題の解決の必要性や責任を認識して、実施前後から能研テストの趣旨に賛同し、追跡調査には積極的に協力する姿勢を一貫して示していた点、また、実施主体である能力開発研究所や能研テストの予算・費用に懸念を示し、その財政支援の強化も要請していた点が明らかとなった。このことから、国立大学を含めた大学が能研テストに消極的・否定的な態度を一貫してとっており、それがテストの廃止の主な要因だったと指摘する先行研究の説明とは異なる対応を、国立大学協会はとっていたと言える。一方、個々の国立大学ではテストの利用がなかなか進まず、テスト実施終盤には利用のための具体的な審議はほとんど行われなかった状況もたしかにみられた。この主な背景として、先行研究や当時の新聞報道にもある通り、日本教職員組合を中心とした組合側や高校生・大学生が、能研テストを人材選別や教育の国家統制の手段とみなして反対運動を行っていた状況や、大学側のテストへの信頼性が確立していなかったこと、そして1960年代後半からの学園紛争の活発化があったと考えられる。このことから、大学入試に関する問題点を認識し、その改善のために追跡調査を通して能研テストの活用可能性を探る国立大学協会と、テストへの信頼性や当時の社会状況からその利用を進められなかった各大学との間で、テストに関する方針が一致せず、その合意形成ができぬまま、主に財政上の理由でテストが廃止されたと言える。 以上の成果を基に、1件の学会発表と1件の論文発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度(2022年度)は能研テストの政策過程に関する資料収集・分析を概ね完了し、来年度(2023年度)の成果発表(学会発表・論文)に向けた準備も順調に進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、能研テストの政策過程に関する学会発表・論文発表を行うと共に、進学適性検査の政策過程に関する資料収集(教育刷新委員会・中央教育審議会といった関係審議会や、米国の民間情報教育局の答申(提言)・議事録等、国会議事録、国立大学協会発行の会報、新聞・雑誌記事等)を行い、それらを基に学会発表・論文発表の準備を進める。そして最終的に、戦後直後に実施され間もなく廃止されたため不成立となった進学適性検査・能研テストと、成立した共通第一次学力試験の政策過程を比較し、政策過程におけるいかなる要因が共通試験制度の成立に重要だったかという点について結論を得る。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響による学会大会のオンライン開催等により、旅費を中心に、当初予定していた一部の項目に関して余剰金が発生した。 次年度は、当初の計画にあるように、分析に必要な関連文献等の物品・消耗品の購入、資料収集や学会参加等のための旅費を中心に、余剰金を含めた助成金を使用する予定である。
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