2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K20318
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Research Institution | Kyushu Open University |
Principal Investigator |
須藤 竜之介 一般社団法人九州オープンユニバーシティ, 研究部, 研究員 (70967702)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 心の知覚 / 道徳判断 / 自然 / 環境保全 / 動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際的な社会問題である自然環境や生物多様性の保全について、生息する生物の心の知覚によってその生息環境への保護意識が向上しうるかを明らかにする。具体的には「野生生物に対する心の知覚の有無による、その生物種の個体数の保護意識および生息環境の保護意識の差異の検討(研究1)」と「野生生物の心の知覚の促進操作による、生物種の個体数の保護意識と生息環境の保護意識への影響の検討(研究2)」の2つの研究によって遂行する。 現在、共同研究者とともに実施した予備調査から、哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類、軟甲類、腹足類、クモ・サソリ類、両生類、昆虫類、植物の計10種の生物を対象に、各生物種が具体的にどのような感情(喜び、悲しみ、怒り、嫌悪、恐怖、驚き)をもつと一般的に考えられているのかを明らかにした。約300名を対象に行ったこの調査から、主に哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類に対して6種の感情が比較的高く評価される傾向があること、特に哺乳類の感情経験能力ついては他の種との間に大きな隔たりがあると感じていることがわかった。一方で植物についてはいずれの感情もほとんどないと評価されていたが、そのなかで喜びの感情が比較的高い評価をされていた。植物における喜び感情のような、一部の生物種と結びつきやすい感情のイメージが存在することが示唆された。ネガティブ感情においては、哺乳類以外の生物種においても、驚きをはじめ比較的高い感情の経験能力があると評価されていた。しかし、悲しみの感情だけは哺乳類以外の動物種では非常に低い評定であった。悲しみは高次の感情と考えられているため、人は対象の生物に対してより高次な感情の有無で心の知覚の線引きをしている可能性が示唆された。悲しみなどの高次の感情の存在が動物に対する心の知覚に重要であり、その動物への道徳的配慮の促進につながる可能性が明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は先述の予備調査の結果をもとにオンラインでの大規模調査を行い、生物種による心の知覚の差異、およびその差異に伴う生物の個体数の保護および生息環境の保護意識の違いについての一般的な傾向を明らかにすることを予定していた(研究1)。加えて、生物の心を知覚する際に、具体的にどの種類の感情(喜び、悲しみ、など)をもつと感じることが保全意識に関連しているのかも検討対象であった。当初の予定では2023年1~2月に調査を実施予定であったが、まだ調査の実施に至ることができていない状況である。計画の遅延についての原因は主に2つある。1つは助成事業の申請時から交付にかけて申請者の主たる所属機関の変更が発生し、新たな職務への順応と研究環境の構築に当初想定していた以上の時間と労力がかかったことである。現在は、研究環境構築等の準備は完了しており、調査開始のための準備を鋭意進めている。もう1つは予備調査の豊富なデータに対して分析手法の確立に時間がかかったことである。予定していた研究1は、この予備調査の結果に基づき調査計画のブラッシュアップを行い、実施する段取りとなっていた。先の研究環境構築の遅れに伴い、予備調査の分析も遅れ、分析が難航したことで調査の実施までに時間を要することとなった。しかし、予備調査からは思っていた以上に有用な成果が得られており、この結果が活用されることで今後実施される研究1の内容の充実を確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な研究環境の構築は完了しているため、速やかにスケジュールが遅れているオンライン調査の実施を行う。6月中にオンラインプラットフォームサービスを用いたWEB調査用準備を完了し、7月までに調査実施と完了を予定している。8~9月にかけて分析を行い、その結果をもとに実験(研究2)の準備を完了させる。当初の計画では研究2は次年度の9~11月に実施を予定しており、上記の修正スケジュール通りに遂行が進めばスケジュールの遅延は一ヶ月程度になる見込みであり、十分にリカバリーができるものと考える。所属機関における実験室利用についてもすでに目処をつけており、実験用備品の準備が滞りなく進めば、スムーズな実験開始ができる見込みである。この修正スケジュールにあわせて、12月~翌年1月にかけて結果の分析を行い、翌年2月中に研究1と研究2をとりまとめた成果論文の投稿準備を完遂する。
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Causes of Carryover |
今年度は支出予定額に対しておよそ16万円の執行残額が発生している。この主要な原因は、人件費として計上していた研究協力者への謝金15万円が、研究スケジュールの遅延で調査開始できていないことによる未消化で発生している。そのため、修正した研究スケジュールに基づき、最終的に当初の予定通り2つの研究が遂行されれば、次年度使用額全体を問題なく執行が可能である。この人件費の未消化が発生している調査については、次年度の7月までに調査完了を予定している。
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Research Products
(1 results)