2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K20324
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鈴木 啓太 立命館大学, 総合心理学部, 助教 (70962132)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 暗黙理論 / マインドセット / 社会生態学的アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は能力の可変性に関する信念である暗黙理論が獲得されるメカニズムを検討することである。暗黙理論はモチベーションの維持過程に影響を与え、私たちの課題達成を左右する重要な要因である。本研究はこの目的のために、①特定の暗黙理論を持つこと行動傾向、②それらの認知行動傾向が有効に働く環境のもとで当該暗黙理論は獲得されるか、の2点を検討した。 ①暗黙理論は、「能力は可変的である」とする増加理論と、「能力は固定的である」とする実体理論に別れる。本研究では課題に選択肢がある場面に着目し、増加理論者・実体理論者の振る舞いを検討する実験室実験を行った。本年度は報告者が過去に行った実験の直接的追試を行った。増加理論者が特定の課題で努力を行い、実体理論者が適性のある課題の探索を行うという予測を検証した。課題の選択肢が複数あり、取り組む課題を選ぶために課題の中身を「観察」する機会と、課題の練習を行う「熟達」の機会があるとき、課題成績を最大化するためにどちらの機会を多く取るかを測定している。この時、「観察」と「熟達」の機会をとる回数の合計を20回と定め、どちらか一方の機会を多く取ろうとすると、もう一方の機会が減ってしまうト レードオフ構造にした。増加理論者は、能力は可変的という信念のもと熟達の機会を、実体理論者は、能力は固定的という信念のもと観察の機会を多く取るという仮説を事前登録し、実験は現在も進行中である。 ②増加理論者が特定の課題で努力を行い、実体理論者が適性のある課題の探索を行うのであれば、課題を自由に選択できる程度によって適応的に機能する暗黙理論が異なる可能性がある。特殊なカリキュラムを持つ高校2校を対象に調査を行い、暗黙理論に学校差があること、課題選択の自由度が高い学校では実体理論的になることを確認し、課題選択の自由度が暗黙理論の獲得に影響を与える要因となっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、当該年度において大きく次の2つの研究課題を遂行してきた:①暗黙理論が課題選択方略に与える影響の検討、②課題選択の自由度が暗黙理論の獲得に与える影響の検討。 ①について、本年度は(i)学会での成果発表、(ii)学会でのフィードバックを踏まえた追試の実施、の2点の進捗が得られた。申請者は過去に増加・実体理論者が課題選択場面でどのように行動するかを実験的に検討してきた。本年度はその成果を第64回の日本社会心理学会で発表を行った。サンプルの代表性等について議論を行い、それらを改善し、サンプルサイズの設計と仮説を事前登録した上で、現在所属大学で追試を実施している。参加者の募集のペースは当初の予定をやや下回っているものの、着実に進捗が得られている。 ②について、本年度は(i)複数の高校での調査の実施、(ii)学会での成果発表の2点で進捗が得られた。2つの高校の生徒を対象に調査を実施し、生徒がどの程度授業内で、自身で取り組む課題を選択可能か測定した。学校によって課題選択の自由度が異なっており、課題選択の自由度が高い学校では実体理論的傾向が高かった。これらは課題選択の自由度が暗黙理論の獲得に影響することを示唆する結果である。学会でも成果発表を行い、2校による事例的検討の色合いが強いため、今後も学校数を増やしながら検討していく必要性を議論した。 関連して、本年度は学校を対象とした調査で、探究学習に暗黙理論が与える影響を検討した。教員によって取り組む課題が与えられる従来の授業と異なり、探究学習では生徒自身が取り組む課題を選ぶことが求められる。これは、課題選択場面の特徴に該当する。調査を実施し、課題を柔軟に変化する探究グループに所属した実体理論者はそうでないものに比べ達成感が高くなることが示され、課題選択の自由度によって適応的な暗黙理論が異なることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はまず本年度から実施している追試の完遂を目指す。現在の募集のペースのまま推移すれば、年度の中盤ごろまでには収集が完了する見込みである。その後、データ分析・学会発表を行い、元となった研究と合わせて論文投稿を行う。 また、学校を対象とした調査は継続して行う。調査に協力してもらえる学校を探索し、課題選択方略が異なる複数の学校のデータを用いた分析を目指す。また、探究学習に関するデータは現在日本教育工学会論文誌に投稿中であり、掲載に向けた査読対応を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の通りである:①本年度実施していた実験室実験において、参加者の募集が当初のペースより遅れたため、②学会の旅費が当初の予定より低い予算で収まったため。 ①について、実験は次年度も継続して実施予定であり、その参加報酬に使用される。②について、次年度は国際学会での発表が決定しており、当該助成金はその旅費に使用される予定である。
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