2022 Fiscal Year Research-status Report
拡散構造を持たない消散型波動方程式に対する大域可解性の理論の新展開
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22K20345
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
喜多 航佑 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (50962445)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 消散型波動方程式 / 重み付き各点評価 / 大域適切性 / 減衰評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は空間三次元における消散型波動方程式の解に対する時空重み付き各点評価を導出した.これは,本研究の目的である波動方程式と消散型波動方程式の連立系である「中尾の問題」の解析に必要な道具を構築したことになる.そもそも波動方程式と消散型波動方程式は偏微分方程式としての分類では同じ双曲型方程式となるにもかかわらず,前者はエネルギー保存や有限伝播性といった波動的な性質を持つが,後者は消散項の影響でそのような波動的性質よりも寧ろエネルギー散逸やそれに伴う減衰の観点から放物型方程式である熱方程式的性質をもっていると捉えることが出来る.従って,中尾の問題の解の漸近挙動の解析は全く違うものだと考えられていた双曲型方程式と放物型方程式の間のある種の階層構造を解明するための一つの鍵となっていると考えられる. 中尾の問題に対しては解の有限時間爆発 (時間大域解の非存在) に関しては幾つかの結果が存在するが,時間大域解の存在に関する結果は未だに存在しない.実際,単独の消散型波動方程式の初期値問題の大域適切性の証明に関しては,消散効果によるエネルギー散逸に着目した重み付きエネルギー法がよく用いられているが,この手法は波動方程式には適合しない.従って,中尾の問題の時間大域解を議論するためには消散型波動方程式に対する波動的なアプローチを確立しなければならない.本研究ではその一つとして解の重み付きの各点評価に注目して研究を行なった.特に波動方程式に対する F. John (1979) の古典的な結果の消散型波動方程式版を導出した.この評価を用いることで中尾の問題の解決だけでなく,単独の消散型波動方程式のより詳細な解析を可能にすることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に得られた単独の消散型波動方程式の解に対する各点評価は,従来の熱的アプローチとは異なり消散型波動の持つ波動の影響を取り入れた新しい観点に由るものであり,その応用として消散型波動方程式そのものの研究に新たな見地をもたらすことが期待される.また,波動方程式と消散型波動方程式の連立系である「中尾の問題」の大域適切性においても有用であることが期待され,本研究課題の実施期間中に本研究の目的である中尾の問題の臨界指数の決定が見込まれる.さらに,本年度の研究は空間三次元に限ったものだったが,解の明示的表現を用いた手法は他の空間次元においても本質的には同様となるはずであるので,一般次元への拡張が期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本年度に得られた時空重み付き評価を用いた空間三次元における「中尾の問題」の大域解の存在証明,及び空間次元の拡張を行う.また,単独の波動方程式で良く研究されている重み付きのストリッカーツ評価が消散型波動方程式に対して導出することを試み,より良い減衰評価やライフスパンの評価を考察する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で予定していた研究打ち合わせ出張が一回キャンセルになったため,一回分の国内旅費に相当する額が繰越になった.次年度に再び研究打ち合わせの為の国内旅費として使用予定である.
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