2022 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of quantum transport induced by emergent magnetic field in real and momentum space
Project/Area Number |
22K20348
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 林介 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80962133)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | トポロジカル物質 / ワイル磁性体 / ベリー位相 / 量子輸送 / 熱電効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、実空間のスピン構造と波数空間における電子構造を組み合わせることによる新奇量子現象の探索を目標としている。これまで空間反転対称性の破れた磁性ワイル半金属であるRAlSi(R=希土類)に着目して研究を進めてきた。磁性ワイル半金属RAlSiにおいては、波数空間における電子構造であるワイル分散と実空間における磁気構造が密接に関連していることが近年の研究により明らかになってきた。特に、ワイル電子がスピン間の相互作用を媒介することで、螺旋磁性が生じる可能性が指摘されている。本研究ではこのような可能性を探索するために、NdAlSiの熱電効果の測定を行った。熱電効果は、電子状態密度や散乱時間の異常を敏感に検出できるプローブである。 まず、アルミニウムフラックス法を用いてミリメートルサイズの単結晶NdAlSiの合成を行った。ラウエX線回折法やエネルギー分散型X線(EDX)分析、抵抗測定を用いて、合成したNdAlSiの品質評価を行った。抵抗測定によりキャリア数と移動度の関係を明らかにし、ワイル電子の寄与が大きくなる純良な試料を選び出し、熱電効果の測定を行った。 NdAlSiのネルンスト効果は低温に向かって増大し、磁気転移温度より少し高温において最大を示し、さらに低温では減少する振舞いを示した。高温および低温におけるネルンスト効果は、半古典的なモデルによって定量的によく説明されることを明らかにした。さらに、磁気転移温度近傍での増大は、散乱時間の異常に由来していることが分かった。これは、実空間におけるスピン構造の形成に伴って、波数空間のワイル電子が変調を受けたことを反映している可能性がある。今後は、他の希土類元素においても同様の研究を展開し、上記の現象について包括的な理解を構築する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
フラックス法を用いて高品質単結晶RAlSi試料の合成に成功しており、今後のスムーズな研究展開が可能となっている。また、抵抗測定においてキャリア数依存性を精密に調べることで、バンドフィリングの異なる試料の合成にも成功している。加えて、熱電測定においては、磁気転移温度付近でネルンスト効果が増大する興味深い現象を発見した。この現象は、RAlSiにおいてスピン構造とバンド構造が密接に関連している可能性を示唆しており、今後の詳しい研究探索へとつながる結果である。 以上の研究進捗状況を踏まえて、「当初の計画以上に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、NdAlSiにおいて観測した熱電効果と同様の現象が、バンドフィリングの異なる試料や他の希土類元素を含むRAlSiにおいても発現するのかを検証することが重要である。多角的に検証することにより、磁性ワイル半金属におけるスピン構造とワイル電子の関連性を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
次年度(2023年度)に他の予算との合算による高額物品を購入するため。管状炉(シリコニット社製)もしくはモノアーク炉(テクノサーチ社製)を購入予定である。
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