2022 Fiscal Year Research-status Report
回転対称性の制御による時間反転対称性の破れた超伝導体の研究
Project/Area Number |
22K20349
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石原 滉大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (00961690)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 超伝導 / 時間反転対称性の破れ / 一軸歪み / 磁場侵入長測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、時間反転対称性が破れた超伝導体の候補物質であるUTe2とFe(Se,S)に対してゼロ歪み下での磁場侵入長測定を行い、その結果から時間反転対称性や超伝導ギャップ構造について議論した。 UTe2では、磁場を各結晶軸方向に印加した状態での磁場侵入長測定から超伝導準粒子励起の異方性を観測し、ゼロ歪み下でのポイントノードの位置を決定した。その結果、実際に時間反転対称性の破れたカイラル超伝導状態が実現していることを明らかにした。さらに、非常に純良なUTe2単結晶に対して下部臨界磁場の測定を行った結果、磁場を結晶のb軸とc軸に印加した場合に下部臨界磁場が大きく増大していることが明らかになった。この結果はUTe2におけるイジング的な強磁性揺らぎと関係している可能性があり、カイラル超伝導の発現機構との関連も期待される。 Fe(Se,S)の正方晶領域の試料に対しては、ゼロ歪み下での磁場侵入長測定に加え、電子線照射を用いた不純物効果の測定も行った。電子線照射を行うことにより、実際に電気抵抗率の増大と超伝導転移温度の減少が同時に観測され、理想的な点欠陥が導入されていることが明らかとなった。また、磁場侵入長の温度依存性に関しては、照射前は冪がおよそ1.6であったものが不純物を導入するにつれて冪が一度上昇して2を超え、さらに照射していくと2に近い値を取るという、非単調な振る舞いを示すことが明らかとなった。このような振る舞いは、時間反転対称性の破れたBogoliubovフェルミ面状態で説明できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は当初の予定通り、時間反転対称性の破れた超伝導体候補物質であるUTe2とFe(Se,S)に対して磁場侵入長測定を行い、超伝導ギャップ構造の観点から時間反転対称性について議論した。この結果は、次年度以降に一軸歪み下磁場侵入長測定を行う上で基礎となる結果であり、本研究は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、一軸歪み下磁場侵入長測定システムの立ち上げを行い、一軸歪みに対するUTe2やFe(Se,S)の超伝導ギャップ構造の変化を議論する予定である。また、Fe(Se,S)では正方晶領域と直方晶領域の広い範囲で時間反転対称性の破れが報告されている一方で、それぞれの領域の超伝導状態は異なることも指摘されている。次年度は、Fe(Se,S)における回転対称性と時間反転対称性の関係を理解するために、直方晶領域におけるFe(Se,S)の超伝導ギャップ構造も詳細に調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度に購入予定であった一軸アクチュエータコントローラを年度内に購入することができず、また予定していた出張も体調不良によりキャンセルしたため、次年度使用額が生じた。次年度は一軸歪み下磁場侵入長測定装置の開発に必要な一軸アクチュエータコントローラやユニバーサル周波数カウンタを含めた電子機器を購入する。また、研究分野の研究動向の把握や自身の成果発表を行うため、国内外での学会に参加する。
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Research Products
(16 results)
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[Presentation] キタエフスピン液体候補物質α-RuCl3のsublimation法による単結晶試料合成と特性評価2023
Author(s)
難波隆一, 今村薫平, 池内萌, 出倉駿, 森初果, 宮本辰也, 岡本博, 村山陽奈子, 笠原裕一, 松田祐司, 石原滉大, 橋本顕一郎, 芝内孝禎
Organizer
日本物理学会
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[Presentation] ミュオンスピン回転法を用いたFeSe1-xTexにおける時間反転対称性の破れの検証2023
Author(s)
小河弘樹, 六本木雅生, Yipeng Cai, Guoqiang Zhao, Mohamed Oudah, Supeng Liu, 今村薫平, Marta-Villa de Toro Sanchez, C, Cyrus Young, Jinsong Zhang, Igor Markovic, 渡辺孝夫, 藤井武則, 松浦康平, 石原滉大, 橋本顕一郎, Douglas A. Bonn, 小嶋健児, 植村泰朋, 芝内孝禎
Organizer
日本物理学会
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[Presentation] 不純物効果を用いたFe(Se,S)の超伝導ギャップ構造の研究2023
Author(s)
永島拓也, 石原滉大, 小林雅之, 六本木雅生, 松浦康平, 水上雄太, Romain Grasset, Marcin Konczykowski, 橋本顕一郎, 芝内孝禎
Organizer
日本物理学会
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[Presentation] Probing time-reversal symmetry breaking in FeSe1-xTex superconductors by muon spin relaxation2023
Author(s)
Masaki Roppongi, Koki Ogawa, Yipeng Cai, Guoqiang Zhao, Mohamed Oudah, Supeng Liu, Marta-Villa De Toro Sanchez, Cyrus Young, Jinsong Zhang, Igor Markovic, Takao Watanabe, Takenori Fujii, Kohei Matsuura, Kota Ishihara, Kenichiro Hashimoto, Douglas A Bonn, Kenji M Kojima, Yasutomo J Uemura, Takasada Shibauchi
Organizer
APS March Meeting
Int'l Joint Research
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[Presentation] カゴメ格子系超伝導体CsV3Sb5における超伝導対称性2022
Author(s)
六本木雅生, 石原滉大, 田中優之介, 小河弘樹, 岡田昂, 劉蘇鵬, 向笠清隆, 水上雄太, 上床美也, R. Grasset, M. Konczykowski, Brenden R. Ortiz, Stephen D. Wilson, 橋本顕一郎, 芝内孝禎
Organizer
日本物理学会
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