2022 Fiscal Year Research-status Report
ビームライン常設型フレキシブル高エネルギー中性子偏極デバイスの開発
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22K20364
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高田 秀佐 東北大学, 金属材料研究所, 特任助教 (10967748)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 中性子 / 偏極 / スピンフィルター / ヘリウム |
Outline of Annual Research Achievements |
偏極ヘリウム3を用いたスピンフィルターは、meV程度のエネルギーを持つ熱中性子に対して有効な中性子スピン偏極装置である。ヘリウム3の偏極は、スピン交換光ポンピング法(SEOP法)によって行われる。ヘリウム3ガスをガラス容器に封入して磁場中に設置し、円偏光レーザーを照射することによって、ヘリウム3核を偏極する。SEOP法は、従来の核偏極法と比較して低磁場かつ低温で偏極できるという利点を持つ。この利点から数十cm各の空間に収まるコンパクトな装置を実現でき、既存の中性子ビームラインに設置して偏極中性子ビームを利用することが可能となる。しかし、ヘリウム3の偏極は外磁場の影響を受けて減偏極しやすいため、中性子ビームラインのような磁性体を多く含む環境下で実用するには、磁場一様性が良いコイルを設計する必要がある。ヘリウム3偏極保持用のコイルのみを設置した非常設型スピンフィルターは磁場一様性が高い大型のコイルを使用できるため、すでに日本においても利用されている。しかし、レーザーなどの偏極システムを含んだビームライン常設型スピンフィルターは、世界的にも導入の例が少ない。また、非常設型スピンフィルターの場合、偏極ビルドアップ完了後にコイルとヘリウム3ガラスセルを中性子ビームラインへと輸送しなければならず、ヘリウム3ガラスセルの破損のリスクや、中性子ビーム実験中に偏極率が低下する等の問題点がある。本研究では、小型かつ磁場一様性が高いコイルを開発し、大強度陽子加速器施設(J-PARC)や研究用原子炉施設JRR-3の中性子ビームラインでの常設型スピンフィルターの実用を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度には、有限要素法に基づいた磁場計算シミュレーション用のソフトを使用して、コイルの設計を行った。使用するコイルはソレノイドコイルを仮定してシミュレーションを行い、磁場勾配の条件を満たすコイルの直径や長さ、磁気シールドの設置位置などを探索した。シミュレーションの結果をもとに、磁場一様性が高く、かつJ-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のBL21 NOVAと、JRR-3の6G TOPANのビームライン上に設置可能なサイズのコイルを設計した。ここで、BL21 NOVAでは非常設型、6G TOPANでは常設型のスピンフィルターを想定して設計を行った。BL21 NOVA用のソレノイドコイルは2022年度内にすでに作製し、2023年2月には中性子偏極実験を実施して熱中性子領域において約50%の中性子偏極率を達成した。6G TOPAN用の常設型スピンフィルターの作製は、2023年度に行う予定である。また、コイル開発と並行して、J-PARCセンターの共通技術開発セクションにおいてヘリウム3を充填したガラスセルの作製を行った。ガラスセルを超高真空に真空引きして不純物を除去し、ヘリウム3ガスおよびアルカリ金属(Rb、K)を充填し、ガラスを封じ切ることでセルを作製した。作製したヘリウム3セルは、周波数掃引核磁気共鳴法(AFP NMR法)によってヘリウム3偏極率および偏極緩和時間を測定した。得られたヘリウム3偏極率は約50%、緩和時間は約60時間であり、最低限の性能を発揮しているが、想定よりも悪い結果となった。この原因については、今後の研究で調査する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度には、JRR-3 6G TOPAN用の常設型スピンフィルターを開発する。2022年度に行った磁場シミュレーションでは、スピンフィルター単体で高い磁場一様性を担保する設計のコイルとなっていた。しかし、6G TOPANではヘルムホルツコイルを用いて試料に磁場を印加するため、ヘルムホルツコイルとスピンフィルターとを両立して中性子偏極実験が可能となるように、スピンフィルターの設計を修正する必要がある。そこで、スピンフィルターによって生み出した偏極中性子を、偏極を保持したままヘルムホルツコイル中の試料へと輸送するために、スピンフィルターとヘルムホルツコイルとの間にガイドコイルを挿入する。ガイドコイルとしてはソレノイド型のコイルを想定し、ガイドコイルの磁場強度やサイズを変数としてシミュレーションを行う。シミュレーションによって得られた結果をもとに、偏極中性子の輸送に最適なガイドコイルを設計する。このとき、ガイドコイルによって発生した漏れ磁場によってスピンフィルターの磁場一様性が乱されないように配慮して設計を行い、適宜スピンフィルター用コイルの設計を変更する。これらの研究の後に、常設型スピンフィルターを作製する。作製後、SEOP法によってヘリウム3を偏極し、スピンフィルターの動作試験を行う。試験時にはAFP NMR法によってヘリウム3の偏極をモニターしつつ、長時間の運転において問題が生じないか、数日間に渡ってSEOP法を実施する。スピンフィルター動作試験の後、6G TOPANに設置して再度ヘリウム3偏極試験を行う。これらの試験を実施後、6G TOPANにて中性子偏極実験を行う。初めにスピンフィルターのみを設置し、想定した中性子偏極率を達成できるか試験する。その後、ヘルムホルツコイルおよびガイドコイルをビームライン上に設置し、偏極中性子ビームを使用して物理実験を行う。
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Causes of Carryover |
2022年度の学会旅費として計上していたが、実験のため参加を見送った。そのため、2023年度の学会にて使用予定である。
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[Journal Article] Study of magnetic environment for neutron spin filters using polarized 3He at J-PARC and JRR-32023
Author(s)
Shusuke Takada, Masaki Fujita, Yu Goto, Takashi Honda, Kazutaka Ikeda, Yoichi Ikeda, Takashi Ino, Koji Kaneko, Ryuju Kobayashi, Manabu Okawara, Takayuki Oku, Takuya Okudaira, Toshiya Otomo, Shingo Takahashi
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Journal Title
JPS Conference Proceedings
Volume: -
Pages: -
Peer Reviewed
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[Presentation] Study of magnetic environment for neutron spin filters using polarized 3He at J-PARC and JRR-32022
Author(s)
Shusuke Takada, Masaki Fujita, Yu Goto, Takashi Honda, Kazutaka Ikeda, Yoichi Ikeda, Takashi Ino, Koji Kaneko, Ryuju Kobayashi, Manabu Okawara, Takayuki Oku, Takuya Okudaira, Toshiya Otomo, Shingo Takahashi
Organizer
11th International Workshop on Sample Environment at Scattering Facilities
Int'l Joint Research