2022 Fiscal Year Research-status Report
Development of an in-flight X-ray energy calibration method using short-lived nuclei for Antarctic orbiting balloon experiments
Project/Area Number |
22K20375
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
水越 彗太 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (90963629)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / 反重陽子 / 大気球 / シリコン検出器 / 短寿命核 |
Outline of Annual Research Achievements |
暗黒物質は未知の素粒子であると予想されているが、決定的な証拠の検出には至っていない。長時間南極気球飛翔でシリコン検出器を用いたGAPS実験は、背景事象フリーで反重陽子を検出することで暗黒物質を間接探索する実験であり、現行の直接探索手法、加速器探索手法と相補的である。GAPS実験ではシリコン検出器アレイによって反重陽子を捕獲し、生成される励起エキゾチック原子核からのX線を再構成することによって、粒子識別を行う。識別に必要な高いエネルギー分解能を得るためには、気球環境でも動作するシリコン検出器の冷却が必須であり、さらに飛翔中の較正が必要になる。GAPS実験では自励振動ヒートパイプとサーモサイフォンの原理を用いた冷却系を導入する。このヒートパイプでは、シリコン検出器から発生する熱を主な動力源として用いて、動作条件の厳しい気球環境下でもポンプなどのアクティブな動力源なしに駆動する。 また、GAPS実験では、南極の環境保護と回収の安全の観点から、放射線源を搭載することが極めて難しい。本研究では、温泉地帯などでみられる比較的高いラジウムを含んだ鉱石から放出されているラドン-220を用いることを着想した。ラドン-220は連続的に崩壊し鉛-212となり、この鉛から放出される77 keVのX線を較正に用いる。鉛は半減期11時間で崩壊するため、観測初期にほとんどが崩壊し、背景事象として残らない。ラドンをヒートパイプ中に封入することで、全てのシリコン検出器の近傍でX線を照射することができる。 本年度は、冷却のためのヒートパイプを構築し、地上でシリコン検出器が十分に冷却可能であることを実証し、シリコン検出器の性能評価を行なった。また、飛翔中の線源較正となる短寿命核の生成源としてバドガンシュタイン鉱石を検討し、含有されるウラン、トリウム系列の原子核の量をゲルマニウム検出器を用いて定量的に評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自励振動ヒートパイプとサーモサイフォンの原理を用いたヒートパイプはより小さな系で原理実証されてきたが、GAPS実験のような大型の応用実証は達成されていなかった。GAPS実験の検出器に本ヒートパイプを構築し、地上で検出器を構築することができた。また、飛翔中に冷却源となるラジエーターを模擬する地上冷却系を構築し、大型自励振動ヒートパイプの駆動を世界で初めて確認した。本冷却システムによって、シリコン検出器の動作条件を十分に満たし、シリコン検出器の最終性能評価を始めることができている。 検出器の構築はカリフォルニア大学で実施された。Amazon Web Serviceを活用したクラウド技術を用いて、全世界 (日本、アメリカ、イタリア) の共同研究者が現況を容易に監視し、制御するシステムを構築した。本システムによって、共同研究者がシフトをとることにより長時間の運転が可能になり、長時間飛翔を模擬した検出器の安定性評価を行うことができた。 また、飛翔中の線源較正となる短寿命核の生成源としてバドガンシュタイン鉱石を検討した。法的に放射線源とならない市販の鉱石について、含有されるウラン、トリウム系列の原子核の量をゲルマニウム検出器とGeant4 toolkitを基にしたモンテカルロシミュレーションを用いて定量的に評価した。加えて、放出されるX線量を測定するためのX線検出器についても準備を進め、データ収集システムを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
実際の検出器構築と原理検証を実施することができた。今後は短寿命核を用いた較正手法の開発に注力し、来るフライトに向けて準備を進め、フライトによって反重陽子の探索を実施する。 ラドンを放出するバドガンシュタイン鉱石を破砕し、ヒートパイプの細管中にフローを行うことで適切な較正を行うための運用方法を確立する。小規模な単ループヒートパイプを製作し、線源較正を行った上で、冷却性能に問題がないことを確認する。これらの物品についてはほぼ準備が完了しており、運用条件の検討を詳細に実施可能であることが期待される。ラドンを用いることに問題が生じた場合は、バックアッププランとしてルビジウム-86を留置し生成されるクリプトン-86m (半減期1.8時間, ~20 keV) の使用を検討する。 GAPS検出器の構築と組み合わせ試験は既に実施されている。フライトに向けて最終的な確認を行う熱真空試験を実施する。 12月に南極で予定されているフライトで反重陽子の探索を行い、結果を報告する。反粒子の識別については、モンテカルロシミュレーションと機械学習を組み合わせた解析を実施し、複雑なトポロジーを持つイベントについても定量的に評価する。仮に、1粒子でも反重陽子が検出されれば、宇宙線と星間物質の衝突由来の2次粒子としては説明できない事象であり、今後暗黒物質の正体を探る上での大きな足がかりとなる。GAPS実験は全部で3回のフライトを計画しており、来る2回のフライトについてのフィードバックを同時に得ることが期待される。マイナーアップデートによって検出感度を向上させる手法について新たなアイデアにつながる可能性がある。また、同様のコンセプトを持った後継実験を含めた大気球実験全体に対して、汎用の技術として応用することができる。
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Causes of Carryover |
当該年度中は、研究計画の一環として宇宙航空研究開発機構の大気球実験に深く携わり、気球工学技術についての基礎的知識を身につけた。北海道大樹町 (5月-9月)、オーストラリアアリススプリングス (2月-5月) の気球実験期間の全てに参加した。また、9月-11月はGAPS実験検出器構築のためアメリカカリフォルニア大学で研究を実施した。研究期間を通じて、次年度に実際に実験を行う時間を多く確保する予定であり、また初年度はアイデアの醸成、原理検証を行う期間であると位置付けていたため、次年度の研究活動に繰り越すことが適当であると判断した。当該助成金は研究遂行に伴い新たな視座が生まれた際に追加で実験を行う機器に用いる他、研究成果を広く公表するための旅費、論文投稿費として用いる。
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