2022 Fiscal Year Research-status Report
3階微分方程式で表される粘弾性振動系をニューラルネットワークでどう同定するか
Project/Area Number |
22K20409
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
田尻 大樹 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90944124)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 粘弾性材 / 振動 / 非線形 / ニューラルネットワーク / 同定 |
Outline of Annual Research Achievements |
機械や構造物の振動抑制のために,ゴムやゲルなどの粘弾性材が用いられる.「材料工学」では粘弾性材の減衰や剛性を一般化Maxwellモデルなどの数学モデルで表現するが,「振動工学」ではマス・ダンパ・バネモデルで表現する.両分野の数学モデルが異なるため同定される部材特性が異なる.そのため,制振鋼板などの粘弾性材を含む機械や構造物の動的設計では,両分野の部材特性の整合をとることに支障をきたしており,数学モデルの共通化が望まれている. 本年度は,第一に,材料工学で用いられる最も基本的な3要素モデル(Maxwell要素とばね要素を並列に繋いだモデル)に質量要素を導入して慣性力を考慮した1自由度系を対象に運動方程式を導出し,その定常応答を数値シミュレーションにより求めた.対象とする系の運動方程式の特徴は3階微分方程式で表現されることであり,振動工学で通常使用される線形1自由度振動系の運動方程式とは形式が異なることである.ただし,3要素モデルにおける減衰要素に直列接続された剛性要素の値を無限大にすると,通常の形式と一致する. 第二に,部材特性を同定するためのニューラルネットワークを構築した.具体的には,非線形1自由度振動系の応答に含まれる線形振動成分と非線形振動成分を一旦分離し,線形パラメータ(質量・減衰係数・ばね定数)と非線形特性を同時に同定するニューラルネットワークを構築した.このニューラルネットワークの考え方のポイントは,通常の形式では現れない3階微分項などを非線形振動成分と見なして対象とする系の特性を同定できることである. 今後,実験による妥当性の検証は必要であるが,通常は振動工学的にゴム単体やゲル単体の部材特性を同定することが難しいことに対し,提案手法は鋼板にゴムやゲルを付した制振鋼板を粘弾性材と考え,ゴムやゲルの減衰係数とばね定数を振動工学で扱い易い形式で同定できると思われる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況を3つのプロセスに分類し,以下にまとめる.上述の研究実績の概要のとおり,①材料工学で用いられる最も基本的な3要素モデルに質量要素を導入して,慣性力を考慮した1自由度系を対象に運動方程式を導出し,その定常応答を数値シミュレーションにより求めた.数値シミュレーションの妥当性を検証するために,3要素モデルにおける減衰要素に直列接続された剛性要素の値を無限大にして定常応答を算出し,通常の線形1自由度系の定常応答と一致することを確認した. さらに,②部材特性を同定するためのニューラルネットワークを構築した.同定に必要な計測データは加加速度・加速度・速度・変位・加振力・加振力の時間微分の6つの時系列データである.①の数値シミュレーションで得たデータを実験データと見なし,構築したニューラルネットワークに学習させ,線形振動成分と非線形振動成分を分離した後,線形パラメータと非線形特性を同定した.その結果,線形パラメータが真値に一致したため,構築したニューラルネットワークが妥当であることを確認した. また,上述の研究実績の概要には記載していないが,③粘弾性材を含む1自由度系の試験装置を製作した.粘弾性材には制振ゴムを採用した.1自由度系の周波数応答を計測できることを確認したが,学習用データ(加振力および加速度などの定常データ)の計測を現在進めている段階である. 以上のように,一部継続的に進めるプロセスはあるが,本研究課題の研究内容は順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
実験による妥当性の検証については,まずは,既に製作した粘弾性材を含む1自由度系の試験装置を用いて,学習用データである定常データの計測を進めていく.具体的には,対象の1自由度系の周波数応答から,学習させるべき加振振動数の範囲を決定し,定常データの計測時間等を詳細に検討していく. また,今後の研究の推進方策として,計測ノイズを考慮した学習用データを用いる場合の同定の数値シミュレーションを同時に進めていく必要があると考えている.具体的には現在進めている定常データの計測で得られた計測ノイズの傾向を観察しながら,学習用データに付与する計測ノイズの大きさや,計測機器の特性に基づく計測ノイズの周波数依存性を調査していく必要があると考えている. 最後に,以上の検討を適宜進めて,実験データを用いた同定を行う.その結果の妥当性については,材料工学に基づき同定された制振ゴムの特性値と,本研究で同定した粘弾性要素の特性値を比較することで評価する.
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Causes of Carryover |
設備備品費が当初計上していた経費より若干少なかった.具体的な次年度使用額の発生源は,当初購入を予定していた4ch周波数分析器とは別の4ch周波数分析器を購入したことにある.その理由は,購入したものが当初のものより計測設定やデータ処理が容易であり,かつ価格が安価であったからである. 次年度使用額(B-A)の分の経費は,試験片の追加購入(2023年7月購入予定)のための経費に充てる.
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