2022 Fiscal Year Research-status Report
炭化水素系ロケット固体燃料から発生する熱分解ガスの低分子量化に向けた研究
Project/Area Number |
22K20416
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
坂野 文菜 日本大学, 理工学部, 助手 (40961735)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | 急速熱分解 / ハイブリッドロケット / 固体燃料 / イオン付着イオン化法 / スキマーインターフェースシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請では、炭化水素系ハイブリッドロケット燃料の高性能化を目指し、ロケット燃焼の特徴的な環境に対応した計測技術を用いて燃料の熱分解挙動をモニタリングし、高温・高加熱速度環境で発生する熱分解ガス成分が低分子量化することを目的としている。手始めとして,スキマーインターフェースシステムを用いた熱分解ガスのリアルタイム計測を実施した。 ・反応活性が非常に高いと予想される熱分解ガスの変成影響を十分に抑制したリアルタイムな計測技術として,有機化合物の分子イオン検出性能に優れるイオン付着イオン化質量分析計(IA/MS)と高速加熱炉をダイレクトに接続するスキマーインターフェースシステム(スキマーIF)を取り入れた分析装置内部の圧力バランスの確立および熱分解ガスの安定的な計測技術の確立を行った。事前検討で焦点を当てたヘリウムガス供給圧力:窒素ガス供給圧力=50:50の雰囲気ガス条件は測定対象である高分子材料の熱分解ガスを高強度に測定することが可能であり,このとき最も安定して検出できる高速加熱炉とスキマーIF先端の距離を見出した。 ・上述した測定装置を用いて測定対象となるパラフィン系やブタジエン系の高分子材料の急速熱分解ガスをキュリー温度(室温から急速昇温させる目標温度)1040℃で測定した。その結果,従来の低速昇温条件で得られる分子量帯より低い熱分解ガスが得られると同時に,不活性雰囲気条件下において芳香族炭化水素の発生が確認された。芳香族炭化水素の発生は従来型のキャピラリー接続型質量分析計の測定結果を支持する。 ・熱分解ガスの低分子量化を促進させる添加触媒を検討するために,まず手始めにディーゼルエンジン研究で先行されている多環芳香族炭化水素および水酸基含有化合物を使用し,添加量とその効果について評価した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,スキマーIFを用いた熱分解ガスのリアルタイム計測技術の確立に注力した。具体的な進捗状況は以下の通りである。 (1)分析装置内部の圧力バランスの確立および熱分解ガスの安定的な計測技術の確立:質量分析計の性能を示す指標のひとつであるイオン化効率を高めるため,事前検討で焦点を当てたヘリウムガスと窒素ガスの混合気で熱分解ガスの感度を評価した。He供給圧力=50:50の雰囲気ガス条件で熱分解ガスを高強度に測定することが可能であり,このとき最も安定的に検出できる高速加熱炉とスキマーIF先端の距離を見出した。 (2)スキマーIFを用いた熱分解ガスのリアルタイム計測:(1)の条件を用いて,測定対象となるパラフィン系やブタジエン系の高分子材料の急速熱分解ガスをキュリー温度(室温から急速昇温させる目標温度)1040℃で測定した。急速加熱特有の分子量情報が得られるとともに,先行研究で実施したキャピラリー接続を用いた急速熱分解実験を支持する結果が得られている。今後は,測定試料およびキュリー温度の条件を変更したデータ測定を目指す。 (3)熱分解ガスの低分子量化を促進させる添加触媒の検討:ディーゼルエンジン研究で先行されている多環芳香族炭化水素および水酸基含有化合物を使用し,添加量とその効果について検討した。測定対象の燃料が親油性であることに対して現在の添加触媒候補が親水性であるため,該当触媒をロケット燃料に混錬する方法は今後の検討課題である。 (4)高圧急速加熱炉の検討:ロケット燃焼器内部の高圧環境を再現するため,(1)で用いる高圧加熱炉を大気圧仕様から高圧仕様に変更するための設計を進めている。手始めに加熱部品は従来品を使用し,容器を一気圧より高い圧力条件に達するような設計で検討しており,概念設計は完了している。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度は(1)測定試料およびキュリー温度の条件を変更した熱分解ガスのリアルタイム計測(2)ロケット燃料への混錬を考慮した低分子量化を促進させる添加触媒の検討(3)高圧急速加熱炉の試運転の3点を遂行する予定である。次年度より研究代表者が千葉県から山口県へ異動することで進捗の低下が懸念されるが,今年度の成果で測定条件が明確にされているためこれまでの研究体制で対応可能であること,また(3)加熱炉の試作では現地での調整作業を要する設計検討フェーズは既に完了していることから研究の遂行に支障はないと考えている。
|
Causes of Carryover |
試料保存容器の見積書を作成する業者間で調整内容に齟齬が生じたため,今年度は1円の未使用額が発生した。未使用額は,次年度の高圧ガス配管の購入時に使用する。
|