2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on the living environment as social common capital through housing policy in London's urban planning
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22K20458
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
丹羽 太一 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 特任研究員 (80963107)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | インクルーシブな住環境 / ロンドン・プラン / ライフタイム・ホームズ / ライフタイム・ネイバーフッズ / アフォーダブル・ハウジング / インクルーシブデザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢者・障害者を地域で孤立させない社会的包摂のために、イギリスのコミュニティ・ケア改革を背景とした住宅設計基準およびインクルーシブな地域構築の考え方、ロンドンの空間開発戦略等の進展と実態について調査を行うことで、日本の地域包括ケアシステムや住宅セーフティーネット制度等とアクセシブルな住環境というインフラストラクチャーの関係を捉え直し、高齢者・障害者施策における住宅政策等の課題に対して、住宅と住環境のより効果的で、安定的かつ持続的な供給のあり方を探る。 ロンドンの都市計画における戦略的目標では、アクセシブルな住宅設計基準およびインクルーシブな地域構築などの住環境のアクセシビリティ向上、および一定割合以上の低価格住宅の提供を義務づける住宅のアフォーダビリティ確保といった住宅政策が大きなテーマとなっており、その問題解決のための施策について、補足ガイダンスなども作成して具体的に指針を示している。これらを日本における地域包括ケアシステムや住宅セーフティネットなどの制度における住宅の位置づけと比較する。そこから、民間賃貸住宅や空き家の積極的な活用、社会住宅などの公的サービスといった住宅確保だけでなく、障害者の自立生活支援制度、高齢者の介護保険制度なども利用した地域居住を支える医療・介護等の制度資本の充実と、その生活基盤となる住宅および住環境の整備を社会的共通資本として捉え、必要な制度や組織、インフラストラクチャーの構築として、住宅政策と医療・福祉に関する制度などとの連携や、都市計画における住環境整備による地域コミュニティにおける多様性、包摂性の確保について、生活環境基盤づくりに資する政策のあり方を探り、都市政策および都市計画において、それらを総合的に捉えた住宅政策を構築していく方策を見出す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本における地域包括ケアシステムや住宅セーフティネットなどの制度における住宅の位置づけを文献等で把握し、また、イギリスのアクセシブルな住宅設計基準であるライフタイム・ホームズと、都市の再開発で実践されている、インクルーシブなコミュニティ構築のためのライフタイム・ネイバーフッズ開発指針について、作成の経緯や福祉政策等障害者をとりまく社会的な背景との関係等を調査している。これらの基準を作成し、法制度や住宅政策へのその適用を推進してきた住宅協会Habintegへのこれまでの現地インタビューや、同協会の運営するアクセシブル環境センターCAEの最近のウェビナー内容などをまとめ、今後の現地インタビューの準備を進めている。住宅政策についても、アクセシブルな住宅設計基準が法制化された2015年以降の住宅整備の制度状況を調べ、特にアクセシブルな住宅の法的な位置づけや都市政策による義務付けの実効性を担保する制度システムを明らかにするために、各種規制の都市計画における位置付けを、ロンドン・プランおよびその関連計画ガイダンス等の関連計画の文献等から調査している。また、これらの実現のための障害当事者参加とその役割について、実際の開発時の計画のあり方を、開発計画申請時のアクセス・ステートメント等の文献等にて調べている。併せて、2012ロンドン大会以降のロンドンの都市計画におけるインクルーシブデザインについて、内容を整理している。 さらに、イギリスで開発者に手頃な価格の住宅を提供することを義務付け、アフォーダブルな住宅の建設を実施するための計画政策、ロンドン全域で供給される新築住宅の50%を低価格住宅にするロンドン・プランの関連計画ガイダンス等による政策や補助金制度を調べ、日本の住宅セーフティネット制度等との比較から、日本の制度的な課題等と実際の住宅供給システム等の問題点を洗い出している。
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Strategy for Future Research Activity |
ロンドンの住宅関連の制度については、住宅政策と福祉制度との関わり、ライフタイム・ホームズやライフタイム・ネイバーフッズといったインクルーシブな地域づくりの基準のロンドン・プランへの導入、ビルディング・レギュレーションへの取り込み等の展開を、現地での住宅協会等へのインタビュー等も通して精査する。これらを実効可能にするための制度的な手続きや、制度上のアクセス・ステートメントの位置付けとその作成過程については、障害者参加等の状況も含め、現地計画関係者へのインタビューも交えて、インクルーシブデザインの状況を調査する。また、車いす使用者、建築設計者の眼を通して、アクセシブルな住環境およびインクルーシブなコミニティ形成の進行状況について、政策上のケーススタディとされている再開発事業を中心に、現地計画関係者にもインタビューを行いながら、現地の建築環境を視察する。これにより、ロンドン・プランを中心に、ロンドンの都市計画に見られるアクセシブルな住環境やアフォーダブルな住宅供給、インクルーシブな地域づくりに関する政策・関連制度と、ロンドン・プランがつくられるようになった2004年以降実際に計画、開発されたプロジェクトの現状等を総合的に捉え、ロンドン・プランでも主要なテーマとなっているインクルーシブデザインの全体像を明確にする。 これらを基に、日本の医療・福祉の制度資本とインフラストラクチャーとしての住宅に関して、日本の制度設計のもとで住環境を整備する上での、地域包括ケアシステムや住宅セーフティーネット制度等とアクセシブルなインフラストラクチャー構築のための法制度、住宅政策等に対する様々な取り組みの可能性を検証し、より多様なニーズに対応した住宅の安定供給の方策を探っていくことで、都市計画・都市政策としての住宅政策を効率的、効果的に構築していくための方策を明らかにする。
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Causes of Carryover |
設備備品について、インタビューおよび現地調査記録用として必要とするカメラは今年度使用機会がなく未購入であるが、次年度使用のため今後購入予定。他に、現地調査の状況などによっては、研究業務上不可欠なPC関連の機器更新が必要になる場合も想定している。 旅行や調査などの外出、移動について、COVID19の冬季流行と重なったこともあって、調査支援、資料作成は概ねオンラインでできる範囲に限られた。国内旅費も学会発表などの機会が得られず、移動支援も利用機会が限られたが、次年度COVID19の5類引き下げに伴い、また研究の進展により、外出や外部との接触も増える予定。これまで難しかったセミナー、国内学会発表の機会も次年度に設ける予定で、旅費および移動支援が新たに必要となる。調査支援、資料作成に伴う人件費、謝金も増えると思われる。 研究代表者には重度の身体障害があり、日常生活、移動の際に介助者が必要なため、移動が伴う場合の介助費用の計上を必要とする。特に海外現地調査について、移動支援の介助費の他、介助者2名分の旅費と宿泊費が必要となる。現地調査協力者は、海外現地調査の際に、ガイド、アドバイスが可能な調査対象の専門家を想定している。
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