2022 Fiscal Year Research-status Report
慶長伏見地震における社寺建築の被害・復旧についての学際的考察
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22K20468
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
西川 英佑 関西大学, 環境都市工学部, 助教 (60964806)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 法隆寺 / 慶長修理 / 貫補強 / 地震対策 / 耐震補強 / 補強効果 / 歴史地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、文化財建造物が多く残る関西圏に甚大な被害を与えた慶長伏見地震(1596)を考察対象とし、文化財建造物の中でも比較的地震被害の記録が良く残る社寺建築に関して、文献調査や建物に残る痕跡の調査、実物建物での振動観測や縮小模型を用いた実験などを行い、地震被害の要因やその後の復旧における構造補強を科学的に考察し、当時の人々がどのように対応し、それが歴史的にみて我が国の建築技術の発展にどう影響したかを考察する。 当該年度は慶長伏見地震の発生直後に行われた法隆寺境内建物の慶長修理における貫補強について考察した。8棟の調査対象建物を選定し資料調査・現地調査・数値解析を行い、貫補強の設計方法や施工方法、補強効果を考察した結果、建物を解体せずとも効率よく補強が施せるような施工方法となっていたこと、各建物の構造形式に合わせた合理的な設計となっていたこと、現代の構造学の観点からみても十分な補強効果があったことなどが明らかとなり、慶長修理における貫補強は災害後の構造対策として優れたものであったと評価することができた。 以上の考察結果から、調査対象建物の中でも廻廊に関しては、非剛床の屋根面で柱梁のみからなる架構が連続して繋がる耐震性の低い構造形式を持つこと、慶長修理においては西院廻廊で梁間・桁行方向に、東院廻廊で梁間方向に大量の貫が付加されていることが分かった。これらを踏まえて、さらなる補強効果の検証が必要と判断し、当該建物の縮小模型を作成し、補強前後の状況について載荷実験・振動実験を行うこととした。部分的な模型を試作し、模型の作成方法や実験方法の検討を行った結果、使用する関西大学実験棟の振動台のスペックに合わせるため模型の縮尺1/11とすること、比較的単純な架構が連続する構造形式を持つことから木材3D加工機を使用して効率よく模型製作を行うことなど、実験準備の方針がおおむね決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は研究対象を絞り込んでいくために、法隆寺の慶長修理の貫補強に関して考察を進めたが、想定以上に資料が膨大に見つかり、その全体像の把握に時間を要した。一方で、この検討によって模型実験の対象建物を、補強前の構造性能が低く、補強量が特に多い東院廻廊に選定できたことは大きな成果であった。本来であれば当該年度中に模型実験の対象建物を決定し模型作成等を完了する予定であったが、部分模型の試作にとどまっている。しかし、この試作によって模型の製作方法や実験方法の検討が十分にできているため、次年度の作業がスムーズに進むことが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度、前半で模型製作、載荷実験・振動実験を実施し、後半でその結果を解析結果と比較し考察を行う。実験のためのジグ作成と模型製作を平行して進め、5月中に完了する見込みである。関西大学の実験場が使用しやすくなる夏休み時期に実験を集中して行う予定としている。解析に関しては他大学の研究者に協力を得る内諾を得ているため、前期のうちに解析準備を進め、後期に実験結果と解析結果の比較がスムーズに行えるよう、協力者との意思疎通も綿密に行っていく。
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Causes of Carryover |
当該年度後期に予定していた模型製作等のタイミングが次年度前期に移行したことによる変更である。模型製作等にかかる見込みの使用額には変更はない。
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