2022 Fiscal Year Research-status Report
弱励起光型アップコンバージョン分子システムの開発とセラノスティクスへの応用
Project/Area Number |
22K20538
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
水上 輝市 九州大学, 工学研究院, 特任助教 (60966357)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | フォトン・アップコンバージョン / 光物性 / 励起三重項 / セラノスティクス / ケージド化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、弱励起光で高効率な可視→紫外領域のフォトン・アップコンバージョンを示す水溶性ナノ粒子を開発し、フォトン・アップコンバージョンに基づくセラノスティクスの開拓を目的としている。可視→紫外領域のフォトン・アップコンバージョンは有機溶媒中で報告されているものの、診断・治療分野への展開には、水中かつ低励起強度光下でTTA-UCを示すナノ粒子が必要である。また、従来のフォトン・アップコンバージョンには希土類含有ナノ粒子や重金属を有する量子ドット、重金属錯体がドナーとして用いられており、これらは生体毒性が懸念され医療への展開には代謝・排泄の課題がある。有機溶媒系で高効率なアップコンバージョンは達成できている一方で、水系で分子組織化された重金属フリーなフォトン・アップコンバージョンは実現できておらず、セラノスティクスへ応用できるフォトン・アップコンバージョンが可能なナノ粒子材料の開発が必要である。 本研究では、セラノスティクスを実現するために必要な重金属フリーなドナーおよびアクセプター分子、Caged化合物およびその複合ナノ粒子を自己組織化に基づき構築する技術を提案する。本年度は非金属系ドナー分子として高い三重項増感能を有する熱活性化遅延蛍光(TADF)分子の開発に成功した。このドナー分子を用いることによって、有機溶媒中において20%を超える極めて高い効率を示す可視→紫外アップコンバージョンを達成した。また、太陽光レベルを下回る励起光強度でもアップコンバージョンが駆動することにも成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の可視→紫外領域でのフォトン・アップコンバージョンでは、20%以上の高いアップコンバージョン効率が報告されているが三重項増感剤であるドナー分子に重金属が含まれていた。本研究では、高い三重項増感能を示す重金属フリーTADF分子の開発によって、高いアップコンバージョン効率や低励起光強度での駆動を達成している。また、従来の報告では、その励起波長は445 nmの青色光であり生体透過性が低く変換波長幅も小さい。そこで、生体透過性の高いより長波長で励起可能なTADFドナー分子を設計・開発し、532 nmの励起波長で駆動するアップコンバージョンにも成功した。有機溶媒中において10%と高いアップコンバージョン効率を示し、1.0 eVの大きな波長変換を実現し、10%の高効率を示す緑色から紫外へのアップコンバージョンを世界で初めて達成した。さらに、可視→紫外領域でのフォトン・アップコンバージョンを示すナノ粒子に最適なアクセプター分子を見出すことに成功し、高い蛍光量子収率を維持したままナノ粒子を形成することができた。このアクセプター分子と開発したドナー分子でナノ粒子を形成し、それを脂質二分子で覆ったフォトン・アップコンバージョンナノ粒子を調製しアップコンバージョン特性の評価に着手している。
|
Strategy for Future Research Activity |
フォトン・アップコンバージョンに基づくセラノスティクスを実現させるため、本研究で新たに開発したドナー分子を用いてナノ粒子を作製し、ナノ粒子中におけるアップコンバージョン特性の評価を行っていく。また、抗がん剤等と結合したCaged化合物の開発も行い、それを脂質二分子膜中に含ませたアップコンバージョンナノ粒子の調製・最適化を試みる。その後、培養細胞や小動物に対して作製したナノ粒子を投与し、セラノスティクスの評価を進めて行く予定である。
|
Causes of Carryover |
物品の購入を予定していたが納品が年度内納入が間に合わないことが判明し、次年度に購入することに決めた。また、学会などの出張を行う予定であったが、都合が合わず行けなかった。次年度では、ドナー・アクセプター分子やCaged化合物の合成やナノ粒子の作製に関わる試薬の購入、培養細胞の培地等、小動物実験に用いるマウスの購入に物品費を充てる。またその他に、学会等への出張や受託合成、化合物の解析、論文校正等に使用する。
|
Research Products
(1 results)