2022 Fiscal Year Research-status Report
アレーン類の脱水素型クロスカップリングを実現する担持ナノ合金触媒の開発
Project/Area Number |
22K20554
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
長谷川 慎吾 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 助教 (40964804)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | C-H結合活性化 / 脱水素カップリング / アセトキシル化 / ナノ合金 / アレーン |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、ナノ合金によるアレーンの脱水素クロスカップリングの実現に向け、担持金属ナノ粒子触媒の担体および金属種についてスクリーニングを実施し、アレーンのC-H活性化に対し高い活性を示す触媒を探索した。ベンゼンのホモカップリング反応をテスト反応として活性を評価した。 担持Pdナノ粒子が酸素雰囲気・酢酸溶媒条件において、ベンゼンのホモカップリングに高い触媒活性を示すことを見出した。種々の担体と金属の還元条件を検討した結果、H2PdCl4をAl2O3担体存在下でエチレングリコール溶媒中180 ℃に加熱することで得られるPd/Al2O3触媒が非常に高活性であることがわかった。反応後の触媒について赤外吸収スペクトルを測定したところ、Al2O3のLewis酸点に吸着した酢酸分子に由来すると考えられる吸収帯が観測され、担体の役割が酢酸の活性化であることが示唆された。すなわち、酢酸分子がLewis酸点によって活性化されることでPd粒子表面への酸化的付加が促進され、引き続く協奏的メタル化脱プロトン化機構によるC-H活性化が間接的に加速されていると考えられる。 さらに、カーボンに担持されたPtとRuのナノ粒子を触媒として用いると、ベンゼンと酢酸とのカップリングであるアセトキシル化反応が進行することを見出した。PtRuナノ合金触媒を調製し活性評価を行なったところ、一元系触媒よりも非常に高い活性を示すことが明らかとなった。担持金属ナノ粒子触媒が均一系触媒よりもはるかに高い活性を示したことから、溶出した金属種ではなく金属粒子表面が触媒活性サイトになっていることが示唆された。反応前後における触媒のX線光電子スペクトルによると、ナノ合金触媒は一元系触媒と比較してピークの高エネルギー側へのシフトが減少しており、合金形成によって過酷な反応条件における粒子表面の酸化が抑制されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2022年度はアレーンのC-H結合活性化に対して非常に高い触媒活性を示す担持金属ナノ粒子の合成を達成することができた。アレーンの酸化的ホモカップリング反応においてはAl2O3担持Pdナノ粒子が、アレーンのアセトキシル化反応においてはカーボン担持PtRuナノ合金が高い触媒活性を示すことを見出した。金属元素と担体の組み合わせだけでなく、金属イオンの還元方法についてもスクリーニングを実施し、エチレングリコールを用いるポリオール還元が触媒調製に有効であることを見出した。種々の対照実験によって、溶出した金属種ではなく金属粒子表面が触媒活性サイトとなっていることを確認した。透過電子顕微鏡を用いたサイズ評価によって、これら担持金属ナノ粒子触媒が平均粒径1~3 nmの単分散な粒径分布を示すことを明らかにした。赤外吸収分光によってPd/Al2O3触媒の高い活性が、担体表面のLewis酸点による酢酸分子の活性化に由来している可能性が高いことを見出した。X線光電子分光によって、PtRu/C触媒が反応中の安定性の向上に由来して一元系触媒よりも高い活性を示すことを明らかにした。 以上のように、担持金属ナノ粒子触媒を用いるアレーンの酸化的ホモカップリングおよびアセトキシル化について多くの知見を得た。これらの反応に担持金属ナノ粒子を応用した報告例は少なく、触媒の構造と機能の相関関係についての深い理解はほとんど得られていない。したがって、本研究によって新たに得られた知見は触媒化学の発展に資する意義深いものと考えられる。そのため、2022年度は当初の計画以上に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度において得られた知見に基づき、2023年度では以下に述べる三項目について取り組む:(1)金属ナノ粒子の組成・担体・調製法のさらなる最適化、(2)クロスカップリング反応への展開、(3)触媒の構造解析と反応速度論解析に基づく反応機構の解明。 既にPd/Al2O3触媒がアレーンの酸化的カップリング反応に対して高い活性を示すことを見出しているため、Pdナノ粒子に異種金属を導入してナノ合金とすることでさらに高活性な触媒の開発を行う。異種金属元素に加えて、ナノ合金触媒の担体と調製方法についても系統的な検討を行う。 次に、最適化した触媒を用いてアレーンのクロスカップリング反応の達成を目指す。有望な基質の組み合わせと考えられる、電子不足なアレーンと電子豊富なアレーンの組み合わせを系統的に検討する。アレーンの電子密度が増加すると酸化的付加は抑制され還元的脱離は促進される傾向があるため、適度な電子密度を持つアレーンの組み合わせでは、電子不足なアレーンが先んじて金属表面に付加し、続いて電子豊富なアレーンが付加を起こすと速やかにクロスカップリング体の還元的脱離が進行すると期待される。 最後に、ナノ合金触媒の粒子サイズ・粒子内元素分布を明らかにし、反応速度論的解析によって得られた知見とあわせることで、触媒反応機構を明らかにすることを目指す。ナノ合金粒子のサイズやおおまかな元素分布は透過電子顕微鏡を用いて評価する。X線吸収微細構造のフィッティング解析によって得られる元素間の配位数からも粒子内の元素分布について考察する。さらに、粒子表面に吸着させた一酸化炭素分子の赤外吸収から、粒子表面に形成されているアンサンブルを推定する。反応速度論的解析では、反応速度定数に対して温度・置換基・重水素化が与える効果を調査することで反応の律速段階を明らかにする。
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