2022 Fiscal Year Research-status Report
Researches on arseno-organic secondary metabolites produced by actinobacteria
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22K20566
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
星野 翔太郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (10962988)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 有機ヒ素化合物 / 天然物 / 二次代謝 / 生合成 / 放線菌 / 単離構造決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は主としてS.lividans 66株(以下66株)が生産する構造未知有機ヒ素化合物(以下As-351)の化学構造解明及び生合成遺伝子の同定に着手した。As-351の化学構造を解明する為、まずは無機ヒ酸塩添加条件にて66株の大量培養を行いAs-351の単離及びスペクトル解析を行ったが、As-351の収量が不十分であった事からこの段階では構造決定に至らなかった。 一方で上記のスペクトル解析の過程から(2-hydroxyethyl) arsonic acid (以下2-HEA)がAs-351の生合成中間体である可能性が考えられた為、化学合成により2-HEAを調製して培地に添加した所、66株におけるAs-351の生産性が大幅に向上した。そこで無機ヒ酸塩及び2-HEA添加条件にて66株の大量培養を行った所、構造決定及び抗菌活性試験に十分なAs-351を確保する事が出来た。詳細なスペクトル解析の結果、As-351が2-HEAの新規アシル化誘導体である事が明らかとなった。 As-351は真菌及び細菌類に対する増殖阻害活性を示さなかったが、生合成中間体である2-HEAはグラム陽性細菌Staphylococcus aureusに対する増殖阻害活性を示した。すなわちAs-351は無機ヒ素類の解毒産物或いは抗菌物質2-HEAの活性前駆体として生産される可能性が示唆された。 また66株に対するCRISPR-cBEST及びdouble crossover法の適用により、As-351の推定生合成遺伝子であるSLI_1096及びSLI_1097の破壊株を作製した。両破壊株においてAs-351の生産は殆ど或いは完全に失われており、更に当該遺伝子を相補する事によってAs-351の生産性は野生株と同程度まで回復した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画開始時点でS.lividans 66株(以下66株)が生産する有機ヒ素化合物(以下As-351)の化学構造は未解明であり、実際に無機ヒ酸塩のみを添加した最初の培養条件では構造解析に十分な化合物量を確保する事は出来なかった。一方で、最初の単離構造解析の過程において2-HEAがAs-351の生合成中間体である可能性に思い当たり、化学合成によって調製した2-HEAを培地に添加する事によって66株におけるAs-351生産性の大幅な向上が認められた。結果、発酵生産によるAs-351の大量調製が可能となり、NMRを中心とした詳細なスペクトル解析によってAs-351の化学構造が解明され、2-HEAの新規アシル化誘導体である事が示された。また各種抗菌活性試験の結果に基づき、As-351が無機ヒ素類の解毒産物或いは抗菌物質2-HEAの活性前駆体として生産される可能性が示唆された。 上記の単離構造解析に加え、66株に対する遺伝子操作によりAs-351推定生合成遺伝子であるSLI_1096及びSLI_1097の破壊株作製を行い、両破壊株におけるAs-351の生産が殆ど或いは完全に失われる事を確認した。更に当該遺伝子の相補によってAs-351の生産性が回復する事を確認した。先行研究においてSLI_1097遺伝子がAs-351生合成に関与する事が提唱されていたが、本研究により実験的に立証された。またSLI_1096の関与についても先行研究で未実施であった相補実験を行うことで改めて立証された。 以上の通り本年度は66株が生産するAs-351の単離構造決定と生合成遺伝子の同定を通じ、当初の目的の一つであった放線菌におけるヒ素二次代謝経路の存在を実験的に立証することが出来た。従って本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画における当初の目的の1つであった「放線菌におけるヒ素二次代謝経路の存在の立証」が達成されたことから、今後は放線菌におけるヒ素二次代謝の多様性解明に焦点を当てる。 まずAs-351の生合成遺伝子として同定されたSLI_1096/SLI_1097のホモログを有する他の放線菌株に着目し、SLI_1096/SLI_1097ホモログ遺伝子のノックアウト実験とLC-MSによる代謝解析を組み合わせて新たなヒ素二次代謝産物を探索する。 加えてヒ素汚染環境等から高濃度の無機ヒ素に耐性を有する放線菌株を分離し、各分離株の培養抽出物を対象としたメタボローム解析を行い、ヒ素添加時特異的に生産される代謝物の探索を行う。 各アプローチによって同定された代謝物について生産菌の大量培養及び単離構造決定を実施し、それが新規の有機ヒ素化合物であった場合は生合成遺伝子群の同定を行う(必要に応じて生産菌のゲノムシークエンスを実施する)。
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Causes of Carryover |
本課題研究の交付が9月以降であった事から当該年度における助成金の使用可能期間はおよそ7か月と比較的短く、またコロナ禍の影響で参加学会の一部がオンライン開催となった事により、当初予定した旅費を十分に消費する事が出来なかった。また当該年度はモデル放線菌株が生産する化合物の単離構造決定や同株に対する遺伝子操作実験が中心であった為、所属研究室に既に存在する試薬等で賄うことが可能であり、物品購入の必要が生じなかったことも一因であった。 次年度は各種メタボロミクス解析に必要なUPLC用カラム類の購入やヒ素二次代謝生合成遺伝子同定の為のゲノム解析等比較的高額な支出が予定される他、ヒ素汚染サンプル採取に懸る旅費及び研究成果を広く公表するための学会参加費や論文投稿費用としての消費を予定している。
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