2022 Fiscal Year Research-status Report
昆虫工場における組換えタンパク質生産性改善のための新規指向性進化法の開発
Project/Area Number |
22K20581
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増田 亮津 九州大学, 農学研究院, 学術研究員 (10967079)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | バキュロウイルス / カイコ / 指向性進化 / タンパク質工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カイコに感染するバキュロウイルスに、昆虫生体内において目的遺伝子の変異導入と優良変異体の効率的な選抜という指向性進化のサイクルを実行させ、カイコ-バキュロウイルス発現系における組換えタンパク質の生産性改善を分子進化によって可能にすることを目的とする。そのために、(1)昆虫細胞内で特定のDNA領域内にランダムな変異を導入する技術の確立と、(2)優良な変異体が効率的に選抜されるような技術を開発し、これらの技術を統合して、(3)カイコで少量しか作れない難発現性の組換えタンパク質の指向性進化による生産性改善を目指す。 本年度は、(1)のランダム変異導入において、変異導入酵素融合T7RNAポリメラーゼを発現する組換えバキュロウイルスを作製し、実際にT7プロモータ直下の領域に変異導入可能かどうかを調べた。組換えウイルスをカイコに感染させることで目的の酵素自体の大量発現は認められた。一方で、カイコ内で増殖したウイルス粒子からゲノムを抽出し、次世代シークエンサーで解析したが、顕著な変異を検出することができなかった。(2)では、優良変異体が自動選抜されるようなシステムに利用するため、まずはノックアウトするとバキュロウイルスの効率的な増殖に影響がある遺伝子8種類をそれぞれバキュロウイルスのゲノムから削除し、次にそれぞれの遺伝子をレスキューしたときにウイルスの増殖性が回復するかを調べている。各遺伝子のKOウイルス作製には大腸菌内でのRed組換えを使用しており、初期に遺伝子欠損ゲノムを得ることがなかなかうまくいかなかったが、系を見直すことで遺伝子欠損ゲノムが得られるようになったため、現在、遺伝子欠損ウイルスを順次作製している最中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)では変異導入酵素の発現はカイコで強く認められるものの、次世代シークエンサーで顕著な変異が検出できていない。考えられる原因として、次世代シークエンサーのライブラリー断片化を過剰にしすぎてしまっており、短い断片ばかりが読まれることによるシークエンスバイアスがかかってしまっている可能性が考えられた。また、酵素のプロモーターをウイルス感染末期に発現するポリへドリンプロモーターを用いているため、発現は強力なもののウイルスゲノムがカプシドにパッケージされてしまっている可能性があり、ターゲット領域を編集するにはタイミングが遅すぎる可能性がある。 (2)では順次KOウイルスを作製しているが、初期にRed組換えの効率が予想以上に悪かったため、若干進捗に遅れが生じていた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)では次世代シークエンサーのライブラリー調整を見直す。特に配列の断片化のステップにおいて反応時間を短くする方向に検討することで、短すぎる断片ができすぎないようにする。また、ポリへドリンプロモーターで発現した酵素がT7プロモーター直下の遺伝子を認識できているかをT7プロモーター直下に蛍光タンパク質などのレポーターを配置し、その発現を見ることで確認する。また、酵素を発現するプロモーターをいくつか変えて、発現タイミングを早くすることで変異導入の効率に変化があるかを調べる。 (2)では使用する大腸菌等を変えることでRed組換えがうまくできるようになったため、順次KOウイルスが作れる予定である。KOウイルスの作製後は、その遺伝子をレスキューし、カイコ個体においてウイルスの増殖性が回復するものを優良変異体を自動選抜するシステムへと利用する。 (1)と(2)が確立したところで、(3)においてモデルとなるタンパク質を1つもしくは複数選び、変異導入によって発現性が改善したモデルタンパク質が得られると、増殖性に影響するウイルス遺伝子が発現するような遺伝子回路を構築し、実際に優良変異体の遺伝子を持ったウイルスが選抜されてくるかを検証していく。
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