2022 Fiscal Year Research-status Report
Decoding the molecular basis of phytopathogen evolution in the fungal kingdom
Project/Area Number |
22K20583
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
津島 綾子 大阪公立大学, 大学院農学研究科, 助教 (50965077)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 植物病原真菌 / 比較ゲノミクス / 相同遺伝子 / Colletotrichum / 形質転換 / 恒常発現株 / k-mer |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、真菌界の植物病原性獲得に関わる因子の同定である。先行研究において、申請者は24種の子のう菌を用いた比較ゲノム解析を行い、植物病原性を示す種に特異的に保存された6BP-2遺伝子を見出した。本年度はこの遺伝子の解析を中心に研究を進めた。申請者は2022年3月までイギリスでポスドクとして研究に従事していた。帰国後、テニュアトラック助教として自身の新しい研究をスタートさせるため、実験材料を取り寄せてそれらの培養環境を整備した。実験に用いるモデル植物病原真菌Colletotrichum higginsianum(Ch)の形質転換系も整備し、Ch6BP-2遺伝子の恒常発現株を得ることに成功した。今後は接種実験を実施して病原性への寄与を評価する予定である。また、公共データベースを利用し、6BP-2の保存パターンを249種の真菌ゲノムに対して調査した。その結果、先行研究で着目した子のう菌類だけでなく担子菌類でも、6BP-2遺伝子の有無と植物病原性の表現型との間に共起関係が見られることがわかった。 近年、大量のゲノム情報を高速処理する手法として、k-merによる配列プロファイリングが注目されている。この手法の有用性を検証するため、コムギ赤さび病菌を題材として解析を行なった結果、感染の可否と有意に関連する配列の同定に成功した。k-merを使った手法は多様な真菌に由来する大量の遺伝子配列の解析にも応用できると期待される。この研究成果は令和5年度日本植物病理学会大会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
候補遺伝子6BP-2の解析は順調に進行している。農研機構 農業生物資源ジーンバンクからColletotrichuim higginsianum(Ch)野生株を取り寄せ、培養環境を整えた。先行研究に従い、Chのアグロバクテリウム法を用いた形質転換系を整備した。この系を用いてCh6BP-2遺伝子の恒常発現株を複数得ることに成功した。宿主植物として用いるシロイヌナズナを育成するため、棚や光源を新たに設置し、長日・短日条件の栽培環境をそれぞれ構築した。シロイヌナズナ野生系統種子は理化学研究所バイオリソース研究センターから取り寄せ、自殖によって感染実験を常時行うに十分な量の種子を確保した。現在は接種に用いるシロイヌナズナの生育を待っている段階で、あと1ヶ月ほどで最初の感染実験データが取得できる目処が立った。 公共データベースを利用し、真菌界における6BP-2遺伝子の保存パターンを調査した。解析に用いた249の真菌ゲノムのうち、ゲノム上に6BP-2ホモログを有するのは32%であった。植物病原菌とされる種では68%が6BP-2ホモログを有していたのに対し、哺乳類の病原菌とされる種で6BP-2ホモログを持つのは23%であった。このことから、6BP-2は多くの植物病原真菌ゲノムに保持されている傾向にあると考えられた。 大量の配列比較を高速に行うため、配列を任意の長さに分割したk-merを用いた手法が開発されている。植物病原真菌のゲノム解析における本手法の有用性を検証するため、コムギ赤さび病を引き起こすPuccinia triticinaのゲノムリードを用いてGWAS解析を行った。その結果、感染の可否と有意に関連する50 bpの配列を同定することに成功した。本法は、幅広い真菌種を対象とした大量の配列比較にも利用できる可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
作成したCh6BP-2の恒常発現株を用いて感染実験を実施する。本遺伝子の破壊株も作出次第、感染実験に供試する。比較ゲノム解析を行い、植物への病原性と特に高い相関を示した遺伝子をリスト化する。このうち、上位5個程度について、Ch6BP2と同様に恒常発現株及び破壊株を作出し感染実験を行う。病原性に関わる表現型が観察された場合、各遺伝子がいつ・どこで機能するのかをレポーターアッセイを行なって詳細に明らかにする。得られたデータをまとめ、今年度中の学会発表を目指す。
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Causes of Carryover |
当初サーバーを購入する予定だったが、遺伝研スーパーコンピュータシステムを活用すれば解析が十分可能であることがわかったため見送った。参加した国内学会がオンライン開催になり、旅費がほとんど発生しなかった。 国際線の航空券代高騰により、当初計上した予算では国際学会参加費用が足りないことが予想される。次年度使用額は、旅費の不足分に充てる予定である。
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