2022 Fiscal Year Research-status Report
都市-森林景観スケールにおけるニホンジカの薬剤耐性菌拡散様式の解明
Project/Area Number |
22K20611
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
生島 詩織 岐阜大学, 大学院連合獣医学研究科, 研究員 (80967224)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 薬剤耐性菌 / ニホンジカ / キノロン / ESBL / 大腸菌 / 伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
薬剤耐性菌問題は世界的な公衆衛生上の課題であり、ワンヘルスアプローチによる人-動物-環境での伝播機構の解明が求められている。都市に生息する野生動物は人間社会から耐性菌を獲得し、自然環境へ拡散させる可能性が懸念されている。本年度の研究は、都市公園に生息するシカから山系等の自然環境へ生息するシカへの薬剤耐性菌伝播の実態および各個体群内での伝播様式を解明する目的で実施した。調査地として奈良公園、奈良市中山間地域、国立公園大台ケ原を選定し、これらの地域に生息するニホンジカから直腸糞を採取し、薬剤耐性大腸菌の分離を試みた。 薬剤非含有培地を用いた場合、奈良公園、奈良市中山間地域、国立公園大台ケ原における耐性大腸菌保有率はそれぞれ14、26、6.7%であった。薬剤含有培地を用いた場合、奈良公園および奈良市中山間地域のシカにおけるキノロン耐性大腸菌の保有率はそれぞれ11、17%であり、CTX-M産生大腸菌の保有率はそれぞれ24、4.3%であった。国立公園大台ケ原のシカからは、これらの薬剤に対する耐性大腸菌は分離されなかった。 PFGE解析の結果、奈良公園と奈良市中山間地域のシカから分離された株のパルソタイプは異なっており、個体群間での伝播は確認されなかった。また、奈良公園ではキノロン耐性大腸菌およびCTX-M産生大腸菌の個体間伝播が確認されたが、奈良市中山間地域では個体間伝播は確認されなかった。本研究により、奈良公園および奈良市中山間地域のシカは医療分野で重要な抗菌薬に対する耐性菌を保有するものの、シカの移動を介した広域伝播は限定的であることが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キノロン耐性大腸菌およびCTX-M産生大腸菌を2地域のシカから分離し、PFGE解析により個体群内外における伝播の実態を明らかにすることができた。また、CTX-M産生大腸菌についてはβラクタマーゼ遺伝子を同定した。さらに、薬剤非含有培地を用い、3地域のシカにおける薬剤耐性菌の保有状況を明らかにした。以上の内容については、論文投稿中である。 研究計画としては当初の予定通りに進捗しており、次年度の全ゲノム解析につながる状況となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の結果では、奈良公園のシカから分離されたCTX-M産生大腸菌は複数個体に拡散しているパルソタイプと拡散していないパルソタイプの両方が存在していることが示された。令和5年度はこれらの遺伝的特徴の違いを明らかにするため、CTX-M産生大腸菌について全ゲノム解析を実施する予定である。
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