2022 Fiscal Year Research-status Report
集団ゲノミクスで解き明かす、東アジアのトキソプラズマの移動の歴史
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22K20614
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
猪原 史成 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (00800773)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | トキソプラズマ / 集団遺伝学 / ゲノミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果として、1. 沖縄県以外で報告の無かった慢性感染動物からのトキソプラズマ分離法を確立し、2株の分離に成功した。2.合計12株の日本産トキソプラズマのゲノム情報を取得した。 初年度は、日本のトキソプラズマの分離および収集を行った。当初の計画では、トキソプラズマに高度に汚染されたフィールドで捕獲した野ネズミから分離を進める計画であったが、日本全体の多様性を捉えるにはサンプリング地点の多様性が課題であった。そこで計画を修正し、日本各地で野生動物を扱っている研究者に協力を依頼し、家畜/野生動物試料を収集するネットワークを構築した。これまでに8都道府県から100検体以上の動物試料を集め、現在も収集を続けている。サンプルの収集と並行してトキソプラズマ感染を高感度に検出するnested-PCRの手法を確立して検体の感染の有無を調査したところ、全体で20件以上の陽性例を認めた。陽性検体の試料については、消化酵素での消化後に残滓を除去した抽出物を免疫不全マウスに接種することで、トキソプラズマ株の分離を試みた。抽出方法や感染の有無を確かめる手段を見直しつつ、試行回数を重ねていったところ、これまでに2株のトキソプラズマの分離に成功した。これらの株については現在シークエンシングを依頼している。 新規株の分離と並行して、既存系統の収集とシークエンシングを進めている。これまでに5株の分離株を取得してゲノムシークエンシングを実施した。この他に、残念ながら凍結バイアルからの復帰に失敗した7系統についてターゲットエンリッチメントシステムによるトキソプラズマ特異的なゲノム濃縮法を適用し、7系統について一部-ほぼ完全なゲノム情報を取得することに成功した。これまでの取り組みにより、合計12株について完全な、4株について部分的(10%~77%)なゲノム情報を入手することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分離法の確立、サンプルの収集の効率化、既存分離株の収集など当初の計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も引き続き、日本産トキソプラズマの分離を行う。特に九州と本州の野生動物から分離された系統が欠如しているため、それら地域からの分離に注力したい。これまでに収集された分離株のゲノム情報を元に、世界的なトキソプラズマ集団における日本株の系統学的な位置付けを明らかとする。これまで、東アジアのトキソプラズマの系譜はほとんど分かっていないため、本研究により得られる日本のトキソプラズマに関する情報が、世界全体の集団構造を解明に寄与することが期待される。 近年、日本でトキソプラズマの感染動態を調査した報告は限られている。本研究では副次的に、日本各地の動物におけるトキソプラズマの感染状態や、分離に成功した地域では詳細な遺伝子型が判明する。地域や宿主動物ごとの特性を明らかとすることで、予防策の開発に有益な知見を提供することができる。
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