2022 Fiscal Year Research-status Report
Screening for identifying novel cell competition regulators using synNotch system
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22K20626
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐井 和人 京都大学, 医学研究科, 助教 (30962310)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞競合 / EDAC / synNotch / 上皮組織 / PRKG2 / TRIB2 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞層の中にがん原生の変異を持つ細胞が生じた時、周囲の正常細胞との細胞競合によって変異細胞が排除される現象が示されている。このことは、正常上皮細胞が組織中に生じたがん原生の細胞に対する防御機構を有していることを示唆しており、申請者のグループはこの細胞競合を介した変異細胞排除機構をEDAC (Epithelial Defense Against Cancer)と命名した。これまでの研究から、EDACにおいて、正常上皮細胞は細胞骨格や細胞接着因子の再構成などを介して隣接する変異細胞の排除を行なうという機構が明らかになりつつある。しかし正常上皮細胞がどのように隣接する変異細胞を認識し、排除のための細胞内シグナルを駆動するのか、その分子機構は未だよく分かっていない。そこで本研究では、近年開発されたsynNotchと呼ばれる技術を用いて、上皮細胞層の中で変異細胞と接する正常上皮細胞の識別・単離を行い、それらの細胞内で特異的に変化している因子のスクリーニングを行った。探索の結果、EDACを制御する新規因子として、セリンスレオニンキナーゼPRKG2と足場タンパク質TRIB2の同定に成功した。これらの因子は変異細胞との接触に応答して正常細胞内で発現が上昇し、変異細胞の排除に貢献することが示された。さらに、EDACにおいてこれらの因子が上流の転写因子NF-κBによって発現誘導されていることを見出し、この細胞競合を司る新たなシグナル経路の一端を明らかにした。今後は引き続きEDAC制御因子を探索しつつ、明らかになった経路の上流を解析することで、本研究計画の目的の一つである正常上皮細胞による変異細胞認識機構の解明を行なっていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初の計画以上に進展している。令和4年度は予定通り、synNotchリガンドを発現する2種の変異細胞(RasV12およびSrcY527F発現細胞)の作成を完了し、synNotch受容体を発現する正常細胞と共培養することによって変異細胞に隣接する正常細胞のみを標識、単離できる系を確立した。さらにこの系を用いて変異細胞に隣接する正常細胞内で特異的に発現変動している遺伝子のスクリーニングを行い、EDAC制御における多数の候補因子を同定した。それらの候補因子のうち、特に大きく発現上昇の見られた遺伝子Prkg2およびTrib2を正常細胞側でのみノックダウンしたところ、変異細胞の排除効率が顕著に抑えられた。これらの結果は本研究計画の軸となるsynNotchを用いたスクリーニングにおいて実際にEDAC制御因子を同定できることを示しており、今後引き続き新規因子を見出していけると期待される。また、遺伝子発現パターンから活性の変化している転写因子を予測するプログラムであるwPGSAを用いて、これらの発現変動遺伝子が転写因子NF-κBによる制御を受けていることも見出した。これまでの成果から、新たなEDAC制御に関わるシグナル経路の存在が示されており、本研究は順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、EDACを制御する新規シグナル経路として、NF-κBとその下流で機能するPrkg2/Trib2を見出した。しかし、変異細胞に隣接した正常細胞内がどのように変異細胞の存在を感知しこの経路を活性化するのかという重要な課題は未だ未解明である。従って、今後は変異細胞の認識機構に焦点を当てた解析を行なっていく。変異細胞の認識機構の候補としては、1)変異細胞から分泌される液性因子の受容、2)変異細胞特異的に発現する膜タンパク質の認識、3)変異細胞の出現に伴う周囲の正常細胞への機械刺激、などが考えられる。これらの機構がNF-κB-PRKG2/TRIB2経路を活性化し、EDACによる変異細胞の排除を促進するのか検討していく。 上記の上流探索と並行して、PRKG2/TRIB2の下流で変異細胞の排除を促す分子機構の探索も行なっていく。まずはEDACへの関与が知られている下流因子(FilaminおよびVimentin等)の変異細胞・正常細胞境界面への集積が、この経路を阻害することで変化するのか検討する。また、リン酸化酵素であるPRKG2の基質がEDACに重要であるか検討する。特に、アクチン制御因子であるVASPや、イオンチャネルKCNAなど、変異細胞の排除に伴う細胞運動に関わりうる因子に着目し解析を行う。
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Causes of Carryover |
スクリーニングで得られるであろう多数のEDAC制御の候補因子に関して、新規抗体の作成などの出費を予定していたが、現在機能解析を行なっているものに関してはその必要がなかったため、次年度の使用に回すこととなった。また、Covid-19の流行の影響で学会出席を遠隔で済ますことがあり、当初の計画より旅費が抑えられた。今後、synNotchを用いたスクリーニングで得られた多数の候補因子を調べていく上で、やはり抗体やsiRNA、プラスミド作成に費用がかかることが予想されるため、この次年度使用額はこの目的で使用していく。
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