2022 Fiscal Year Research-status Report
渡り経路の多様性をもたらした歴史的偶然性の解明:日本の渡り鳥に着目して
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22K20670
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
青木 大輔 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 任期付研究員 (80963818)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 歴史的偶然性 / 適応進化 / 自然選択 / 鳥類の渡り / バイオロギング / 集団ゲノミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本の渡り鳥をモデルに、渡り経路が種間で多様に進化した背景に、現在の環境への適応だけでなく、種ごとの進化の歴史の影響(歴史的偶然性)の影響が重要だったことを解明することである。当該年度では、①最先端の遺伝子解析である集団ゲノミクス手法を実施するための実験・解析環境を立ち上げること、②集団ゲノミクスによって進化の歴史を復元する方法を確立すること、③環境への適応のみ、もしくは環境への適応と復元した歴史どちらも、を考慮して渡り経路をシミュレーションする方法を確立することであった。 ①については、当研究所で集団ゲノミクスのための遺伝子実験手法(全ゲノムリシーケンス法)を確立した。さらに、これから得られる大量遺伝子配列データを処理するための解析技術(バイオインフォマティクス)を習得し、これを可能とする解析環境を立ち上げることに成功した。 ②については、①で立ち上げたバイオインフォマティクス手法を用いて、過去の集団サイズや遺伝的多様性を推定した。さらにこれに、種分布モデルを組み合わせて過去に生息していた分布域を復元する手法を確立できた。 ③については、統計シミュレーションを行うための解析スクリプトを作成し、渡り経路が環境適応のみで進化した場合と、環境適応と歴史的偶然性の影響どちらもあった場合に生じる進化とを予測する手法を確立した。予備解析を行った結果、環境適応だけでなく、歴史的偶然性(すなわち、過去の歴史的分布)を考慮した場合により現在の渡りが再現できることを一部の種で確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、着任直後の研究室で実験・解析を開始するため、研究手法の立ち上げや確立が非常に重要であった。特に本研究の中核を担う全ゲノムリシーケンスは、適切な実験手法を確立、及び得られた大量データを複雑なソフトの組み合わせで解析するためのプログラミング技術とそれを実行するための解析環境の確立は、本研究の実行可能性に大きく影響する。本年度は、分子実験に必要な試薬の検討から、DNA処理のための条件設定、一通りの分子実験を行うプロトコルを確立できた。また、バイオインフォマティクスについては、Windows上にLinuxを操作するための環境を立ち上げ、そこで複雑なソフトウェアが相互干渉しないように制御しながら、コーディングで解析を進められる分析環境も整えることができた。これらの成果から、実際に進化の歴史を復元することができ、さらにそれを用いてシミュレーションに取り入れるための手法の開発にまで繋げることができた。今後はこれらの実験・手法を対象種各種に応用することが求められ、これが最終的な研究目的となるため、「概ね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和五年度は、前年度にすでに確立した実験手法・解析手法を、研究対象予定だった渡り鳥複数種に拡張することである。具体的には、不足している遺伝子試料を自身の調査、他研究所・博物館との共同研究などで収集し、これらのDNA抽出から全ゲノムリシーケンスまで行う。得られたデータは、確立したバイオインフォマティクス環境で解析し、渡り鳥各種の進化の歴史を多面的に復元する。一方、これらの種の渡り経路は別途先行文献や、自身の研究から入手し、適切な処理を行う。確立したシミュレーション技法を用いて、環境適応のみ、歴史的偶然性と環境適応の複合的効果の元、それぞれで渡り経路をシミュレーションし、実際の渡り経路がどちらに近いかを統計的に検定する。
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Causes of Carryover |
本研究を進める中、バイオインフォマティクスの技術や環境構築を予想以上に進めることができ、この結果、遺伝型尤度という新しい解析手法を見つけることができた。この手法は、全ゲノムリシーケンスデータを各個体から得る際に、各個体からは薄く満遍なく遺伝子情報を取得する一方、数多くサンプルを用いることで歴史の推定を向上させる手法である。さらに、この手法を用いることで、全ゲノムリシーケンスにかかる費用は格段に低下する。実際に交付された金額は当初の予定額よりも少なかったことから、この手法を用いることで対象種における歴史の復元が可能であると判断し、この導入を決定した。一方で、これには各種あたり20以上のサンプル数が必要であり、これはこれまで収集してきたDNA試料や、共同研究などによる他機関との連携で一部収集済みのサンプルでは賄いきれないことが発覚した。その結果さらなる野外調査によるサンプル収集の必要性が生じた。そのため、次年度使用額に繰越を行い、これをサンプル収集やそれに必要な機材のために使用する予定である。
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Research Products
(2 results)