2022 Fiscal Year Research-status Report
海綿における水平伝播を起点とした生理活性天然物生合成遺伝子の探索と解析
Project/Area Number |
22K20717
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
城森 啓宏 琉球大学, 理学部, 助教 (60964898)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 海綿動物 / 生合成遺伝子 / 共生微生物 / Entotehonella / メンブレンベシクル / Latrunculin |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、海綿における遺伝子の水平伝播に着目した生合成遺伝子クラスター探索基盤を確立することを目指し、共生微生物が保有する遺伝子クラスターの水平伝播の実体を明らかにする。なかでも生物間の水平伝播ツール「運び屋」として知られているメンブレンベシクル(MV)に焦点を当て、生合成遺伝子情報の濃縮を図ることで新たな生合成遺伝子クラスターの取得を目指す。 これまでに我々はある一種の海綿において生合成遺伝子がMV画分に局在していることを明らかにしている。しかし別種の海綿でも生合成遺伝子がMVに局在しているかは不明であった。そこで令和4年度はモデル実験として、既に化合物の生合成遺伝子クラスターが複数同定されている恩納村産Theonella swinhoei海綿から調製したMVにおいて、misakinolide生合成遺伝子クラスターが局在しているのかを調査した。海綿組織を破砕後、遠心分離機により分画することでMV画分を取得した。その後、MVのメタゲノムDNAを鋳型としてPCR実験によりmisakinolide生合成遺伝子がMV中に内包されているか確認したところ、生合成遺伝子の増幅が認められた。次にMVをDNA分解酵素で処理することでMV外のDNAを分解したのちに、PCR実験を行ったところ遺伝子の増幅が認められた。以上の結果から、海綿T. swinhoeiにおいてもMV中に天然物生合成遺伝子が内包されていることが示唆された。現在T. swinhoeiから調製したMVを用いて、可培養細菌と混ぜ合わせることでMVの水平伝播能力を検証中である。さらに生合成遺伝子未同定のlatrunculinを有する海綿においも、MVの取得に成功した。今後はこれらMVの水平伝播能力を検証した後にlatrunculin生合成遺伝子の取得に挑む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでヒト腸内細菌叢を主な対象としてメンブレンベシクルの研究は推進されており、我々の想像をはるかに上回るほど微生物間でメンブレンベシクルを介した遺伝子の授受が行われていることが報告されている。中でも病原性に関与する生理活性物質の生合成遺伝子クラスターや抗生物質の耐性遺伝子などが微生物間で授受されることにより病原菌や多剤耐性菌の出現などに関わることが報告され、近年腸内細菌叢におけるメンブレンベシクルに関する知見は蓄積してきている。一方で、腸内細菌叢よりも多様性が高く自己体積の3分の1を共生微生物などが占める海綿動物において、腸内細菌叢を凌駕する多様性を有するにも関わらず、海綿共生微生物由来メンブレンベシクルに関する知見は全くない。中でも海綿由来メンブレンベシクル中に生合成遺伝子クラスターが局在している例は一例のみであったが、本年度では生合成遺伝子の局在が確認された海綿とは全く別種の海綿Theonella swinhoeiにおいても、メンブレンベシクル中に天然物の生合成遺伝子クラスターが内包されているという知見が得られた。さらにアクチン重合阻害剤latrunculin生合成遺伝子の探索を目的として、latrunculinを有する海綿Cacospongia属からメンブレンベシクルを取得することに成功した。またメンブレンベシクルの水平伝播能力を検証するための遺伝子受け入れ側(アクセプター)として、8種の海綿から20種以上の異なる海洋細菌を分離している。当初の計画通り、遺伝子の水平伝播実験の準備を完了したことから、進捗状況はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、本年度で得られた知見、分離した海洋微生物およびメンブレンベシクルの取得方法を用いて、メンブレンベシクルの水平伝播能力の検証実験を実施する。そのために必要なメンブレンベシクルの特徴(内包物やサイズ)の同定を並行して行うとともに、それらメンブレンベシクルと海洋微生物(アクセプター)を用いて、メンブレンベシクルの水平伝播能力を検証する。分離した海洋微生物に加え、misakinolide類縁体swinholideの生合成遺伝子の保有報告のあるシアノバクテリアに対しても、T. swinhoei由来メンブレンベシクルを供することで、遺伝子の取得の有無をPCR実験にて確認する。メンブレンベシクル水平伝播能力を補足後、その遺伝子伝播現象の実態をアクセプター微生物のゲノムを解読することで、遺伝子補足位置の配列を特定する。 遺伝子補足に重要なアクセプター配列を同定後は、latrunculin生合成遺伝子クラスターの濃縮を図るために、Cacospongia属から調製したメンブレンベシクル画分をアクセプター微生物へと供与し、latrunculinの生合成遺伝子情報の伝播・濃縮を図る。その後、遺伝子を受け取った海洋微生物から、既に設計済みのKS遺伝子を特異的に認識可能なプライマーを用いてPCR実験を実施することで、latrunculin推定生合成遺伝子の取得を試みる。また遺伝子のみならず、HPLCやLC-MSなどを用いて培養成分におけるlatrunculin生産の有無も検証する。latrunculinに加えて、生合成遺伝子が未同定の非天然型アミノ酸を多く構造上に有するcupolamidesの生合成遺伝子の探索研究にも適応し、同様に生合成遺伝子クラスターの取得を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度(9月開始―3月終了)の期間は、9月から11月は実験消耗品や器具の購入など準備期間にあてた。その後12月から3月の期間は悪天候のために研究対象の海綿動物の採集可能期間が極めて短かったことから、採集可能回数が少なくなり次年度の使用額が生じた。 次年度の4月から10月にかけては比較的天候も安定するため、採集経費、実験消耗品や遠心機などの備品購入に使用する予定である。
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