2022 Fiscal Year Research-status Report
抗ウイルス薬創製を指向したwickerol類の不斉全合成研究
Project/Area Number |
22K20722
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
千成 恒 北里大学, 大学院感染制御科学府, 特任助教 (50967544)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | 有機合成化学 / 天然物科学 / 全合成 / ラジカル反応 / 脱炭酸的アルキル化 / カンファー |
Outline of Annual Research Achievements |
人類の健康保健を脅かすウイルス感染症のパンデミックに迅速に対応するため、抗ウイルス活性物質の化合物ライブラリーの構築を目指して当該研究課題を着想、遂行した。本研究の核となる抗ウイルス活性天然物wickerolの不斉全合成を目指して、その基盤である標的化合物の有する母骨格の構築を目指した。 骨格構築に際し行う天然物の逆合成解析においては通例、架橋を含む環構造部位の結合を切断することで、構造的に最も単純化した前駆体へと導くことができる。そのため、それらの“戦略的結合切断”が鍵となり、その認識と選定が重要である。これは空間構造的複雑性を最大限に減らせるためであり、それが合成的な簡易化に繋がると提唱されている。本研究においては、この空間構造的複雑性を最大限維持した出発原料を使うことで、架橋構造に起因した立体選択的変換が可能であり、その結果短工程で効率的な合成へとつながると考え研究を計画した。即ち、天然物の最も空間構造的に複雑な部位を保ったまま合成的簡易化を行う、非古典的な逆合成的アプローチであり、その手法の検証を目指して研究に着手した。 2022年度においては主に、標的天然物の母骨格構築に向け、モデル基質を用いて鍵反応前駆体の調製検討を行なった。その結果、これまでに鍵反応に必要な官能基全ての導入法を見出すことに成功しており、スケールアップ検討を含めた実際の基質調製を行なっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず研究実施計画に記載した、ketopinic acidを市販の出発原料としてカルボニル基に対する求核付加反応を検討した結果、望む反応が進行した生成物を得た。この際は、通常求核剤として汎用されるアルキルリチウムやグリニャール試薬を用いた場合は加熱条件においても反応が進行しなかった。しかしながら塩化セリウムを添加剤として加えた条件において、グリニャール試薬を用いた求核反応が進行することが判明した。本反応は望むジアステレオマーを優先的に与えるが、その選択性の更なる改善に向け検討を行なっている。 次に、その後の工程であるカルボキシ基の脱炭酸的なアルキル化反応をより単純なモデル基質としてketopinic acidを用いて行なった。本反応は2014年にDavid W. C. MacMillanが報告している条件を基にして検討を行なった。論文で報告されている最適条件においては目的物を痕跡量与えるのみであったが、種々の溶媒、塩基等を検討した結果、望みのカップリング体を低収率ではあるが与える条件を見出すことができた。本反応は光レドックス触媒を用いた反応であるため、溶媒の濃度、酸素含有量、光照射効率によって反応の効率性が左右される。そのため、現在はフロー装置を用いた条件を含め、スケールアップのための検討を行なっている。 最後に、本全合成の最終段階において行う環拡大反応の足掛かりとなる官能基導入のための検討を、カンファーをモデル基質として用いて行なった。まずカンファーに対して、Phil S. Baranらが報告している改良Schönecher酸化反応によって、橋頭位のメチル基選択的な配向的C(sp3)ーH水酸化を行なった。その後、導入した水酸基を用いた更なる配向的リレーCーH官能基化戦略によって、リモート不飽和化を行うことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究実績概要で述べたように、これまでに鍵反応前駆体に必要な官能基のそれぞれの導入法については確立済みであり、実際の基質の合成を目指す。これまでの検討において、ketopinic acidのカルボニル基に対する求核付加反応、並びに脱炭酸的カップリング反応に改善の必要があり、反応の順序、保護基、カップリング方法について検討する。 前駆体が合成できた際は、bicyclo[2.2.1]アルコールからオキシラジカル生成によるβ-開裂を伴うradical-polar crossover環化によって4つの不斉中心を制御しながら母骨格の構築検討を行う。本鍵反応を実現するために、まずはより単純な構造を持つ化合物をモデル基質として、段階的な検討を行う。本反応は多段階のカスケード反応であることから、その1つ1つを分析することが成功へ向けた鍵であると考えている。段階的な検討を行うための基質の調製は完了しており、反応条件を含めた詳細な検討を行なっていく。 母骨格構築へ向けた上述した鍵反応と、標的天然物の全合成の終盤において計画している環拡大反応の単純基質を用いたモデル検討について並行して行なう予定である。今年度においては、そのそれぞれの変換における条件の最適化を目指す。
|
Causes of Carryover |
年度末の学会参加であったため、その旅費について次年度分で計算予定である。
|