2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K20736
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石倉 久年 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80772904)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 関節恒常性 / 滑膜 / 軟骨 / 関節運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
関節を健康に保つためには”適度に”動かすことが重要で、一定期間固定していると拘縮してしまう一方で、酷使すると過剰な力学的ストレスによって軟骨が変性して変形性関節症 (Osteoarthritis: OA) に至る。申請者らは長年の研究の中で、軟骨細胞にかかる過剰な力学的ストレスの蓄積が軟骨を変性させる分子機序の全貌を解明してきたが、関節単位で見た場合に適度な運動がどのように関節の恒常性維持に繋がるのかは未だ不明である。申請者らはこれまでの研究成果と予備検討の結果から、これらの鍵を握るのは滑膜であるという知見を得て、滑膜のメカノバイオロジーに立脚した本研究計画を立案した。滑膜に存在する細胞集団がどのように力学的ストレスに応答し、それぞれの集団がどのようなシグナルによってクロストークし、さらに軟骨や骨、半月板、靱帯などの関節構成組織に影響を与えるのかについて、尾部懸垂・関節固定モデルやトレッドミル走行負荷モデルなど多彩なin vivoモデルをベースに、シングルセル-RNAシーケンス解析 (sc-RNAseq)、微小発現解析など最新の分子生物学的手法を駆使して明らかにする。そして滑膜による関節の制御機構の全貌を踏まえた上で、関節機能を維持・改善する介入手段の開発に繋げる。 滑膜は関節疾患の鍵を握る組織として注目を集めており、最近は関節リウマチにおいて滑膜のシングルセル解析の報告も散見される。一方でOAに関連した研究はごくわずかしかなく、正常関節の機能維持を論じた研究は皆無である。本研究では、滑膜の力学的ストレスを最小限にした独自開発の尾部懸垂・関節固定モデルをベースに、生体の関節で起きる力学的ストレスに対する変化を最新のsc-RNAseq技術によって明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
滑膜の力学的ストレスを最小限にした尾部懸垂・関節固定モデルを作成し、関節内滑膜および関節全体の組織学的変化を詳細に分析することができた。結果、まず滑膜変性が先に起こり、その後軟骨変性が生じた。関節運動を途中から再開すると、滑膜は正常に近い状態に戻り、軟骨の変性も抑えられた。また、経時的なbulk RNA-seqでの遺伝子発現をもとにIngenuity Pathway Analysis (IPA)を用いて滑膜-軟骨間のcross-talkを解析した。軟骨の遺伝子発現データをもとにIPAによって軟骨変性の上流因子を探索すると、Spp1やIL-1βなど、MMSモデル滑膜で実際に発現が増加している液性因子が複数検出された。その後、滑膜の中のどのクラスターがこれらの液性因子を出しているかを詳細に解析するために、シングルセル解析を行った。滑膜線維芽細胞およびマクロファージの中で力学的ストレス消失に応答して新規クラスターが出現し、これらが軟骨変性を促す液性因子を強く発現していた。また、蛍光多重免疫染色を用いて滑膜変化を経時的に追うと、MMSモデルでは早期にマクロファージが増殖し、その後線維芽細胞が増殖、活性化した。関節内にClodronate liposomeを投与し、マクロファージを枯渇すると、線維芽細胞の活性化および軟骨変性は抑制された。これらのことから、廃用関節ではまず滑膜の炎症性マクロファージが増殖し、それらが線維芽細胞を増殖、活性化させることで、軟骨変性を引き起こすことが分かった。関節の恒常性を維持するためには、適度な関節運動により滑膜を良い状態に保つことが必要であることが分かった。 これらのことから、研究自体はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの解析から、滑膜に存在する細胞種・サブセットのうち、力学的ストレスによって増殖や遊走が強く促進され、発現遺伝子が大きく変動する細胞集団が明らかとなった。今後は、その細胞集団が力学的ストレスをどのように感知し、どのような細胞内パスウェイを経て応答に至るかを解析する。周期的細胞伸展装置、シアストレス負荷装置を用いて培養細胞レベルで負荷をかけ、各種メカノセンサーのsiRNA, その直下のシグナル経路の阻害剤などを駆使して力学的ストレスを感知する責任分子を探索し、Western blottingなどで細胞内伝達経路を調べる。さらにいくつかの強度の力学的ストレスを負荷し、その前後でRNAseqを行って遺伝子発現の変化を調べ、力学的ストレスへの応答がその強度によってどのように変化するかを明らかにする予定である。これまでのin vivoのデータと、本項のin vitroの実験系で得られる詳細なデータとを照合し、滑膜においてどのような細胞集団がどのような分子機構によって力学的ストレスを感知し、どのような細胞内経路を経てどのような応答に至るかを解明する。本項以降の解析においてはマウス滑膜由来の細胞に加え、手術で得られるヒト滑膜由来の細胞も使用し、種間の相違も併せて検証していく予定である。
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Causes of Carryover |
研究自体はおおむね順調に進行しているが、一部のシングルセル解析を2023年度内に行うことができなかったので、今後追加の解析を行う費用として、次年度使用額に設定した。
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