2022 Fiscal Year Research-status Report
腸内細菌の異常が習慣性流産を誘発するメカニズムの解明
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22K20763
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鈴木 功一郎 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 特任助教 (20963432)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 腸内細菌 / ディスバイオーシス / 抗生物質 / 胎児吸収 / 流産 |
Outline of Annual Research Achievements |
臨床的に確認された妊娠のうち15-25%は流産となる。その多くは胎児に偶然生じた染色体異常によるものであるが、両親が何らかのリスク因子を持ち、流産・死産を繰り返す不育症も妊娠女性の約1%に起きる。不育症では原因を特定できないケースが約半数を占め、その予防・治療法を確立するには、原因の解明が重要である。これまでに原因不明の不育症では母体における腸内細菌叢の構成異常(ディスバイオーシス)が認められることが報告されている。そこで本研究は、母体におけるディスバイオーシスと流産の間に因果関係があるか否かを明らかにすることを目的として実施している。両者に関連が認められた場合には、ディスバイオーシスが流産を引き起こすメカニズムの解明、および、流産の原因菌の特定を目指す。 2022年度は、スペクトラムの異なる種々の抗生物質を投与した雌マウスを交配させ、胎児吸収の発生率を比較する実験を実施した。本研究課題開始時点で既に、雌マウスへの特定の抗生物質の投与が胎児吸収の発生につながることを見出していたが、本実験により、抗生物質の種類によって胎児吸収への影響が異なることがわかった。胎児吸収の発生率に影響を与えない抗生物質がある一方、とある抗生物質を投与した雌マウスでは9割以上の個体で胎児吸収が発生し、個体によっては全胎児のうち半数が子宮内で死亡し、吸収されていた。また本抗生物質を投与したマウスの子宮や脱落膜で一部の免疫細胞に変化が認められ、ディスバイオーシスによる流産の誘導に母子境界面の免疫系が関与する可能性が示唆された。また腸内細菌叢のショットガンメタゲノム解析を行い、胎児吸収を起こしたマウスにおける腸内細菌叢の変化を明らかにし、腸内細菌叢と胎児吸収の相関解析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、概ね順調に進展していると考えている。当初の研究計画では、ディスバイオーシスを起こしたマウスの腸内細菌を無菌マウスに移植してノトバイオートマウスを作製し、腸内細菌の異常が流産の原因になるか調べる予定であったが、実際には、異なるスペクトラムを持つ種々の抗生物質の中から、特に強く胎児吸収を誘導する抗生物質を見出すことを優先した。これによりノトバイオート実験の実施は遅れたものの、胎児吸収を強く誘導する抗生物質を見出すことに成功しており、原因菌の絞り込みやメカニズム解析を実施しやすくなったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ディスバイオーシスが流産の直接の原因になるか調べるために、2022年度に見出した胎児吸収を特に強く誘導する抗生物質を投与したマウスの腸内細菌を、無菌マウスへと移植する実験を実施する。 母子境界面免疫系についてさらに詳細な解析を実施する。妊娠させた抗生物質投与マウスやノトバイオートマウスから子宮や脱落膜を採取し、種々の免疫細胞を解析する。変化が認められたサブセットについては胎児吸収との相関を解析する。また血中・組織中のサイトカインや炎症性物質をELISAや定量PCRにより調べる。 流産の原因菌を探索する。既に、異なるスペクトラムを持つ種々の抗生物質を投与したマウスにおける腸内細菌叢の変化と胎児吸収の発生についてデータを得ている。ノトバイオート実験からも同様にデータを取得し、胎児吸収の発生と相関する細菌を絞り込む。候補となった菌については、単離・培養してノトバイオートマウスを作製し、胎児吸収を引き起こすか調べる。
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