2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞接着因子Saaの腸管出血性大腸菌感染症の重症化への寄与及び病原性機構の解明
Project/Area Number |
22K20766
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
窪村 亜希子 国立感染症研究所, 細菌第一部, 研究員 (40947967)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 腸管出血性大腸菌 / 細胞付着 |
Outline of Annual Research Achievements |
所内に保管される過去15年分の腸管出血性大腸菌(EHEC)のうち細胞付着関連遺伝子saaを保有している可能性があるO血清群に属する312株のEHECを対象に全ゲノム(WGS)解析を実施し、90株からsaaを検出した。90株のうち重症例である溶血性尿毒症症候群 (HUS)患者由来株であった8株は、追加でロングリードシークエンス解析を行うことで完全長配列の決定も行った。90株のsaa保有EHECについて、マンノース添加培地を使用したHEp-2細胞への付着性試験を実施し、そのうちHUS患者由来株8株についてはマンノース不含による条件での付着性試験も実施した。細胞付着性試験の結果から、90株のうち7株で細胞付着性を示し、そのうち2株はHUS患者由来株であった。なお、マンノース有無のいずれの条件でも同じ2株が細胞への付着性を示した。さらに、細胞に付着したHUS患者由来株2株について、saa破壊株を作製した。しかし、saa破壊株を供試した細胞付着性試験結果では、いずれの2株においても細胞への付着が確認された。 Saaについては、主要なO血清群(O157、O26、O111など)に属するEHECからは検出されないため、saa保有EHEC株は希少であることなどからSaaの細胞付着状況については国内外においても十分な株数の調査は実施されていないが、本研究結果からsaa保有EHEC株のHEp-2細胞への付着率は7.8%程度であることが確認された。しかし、作製した2株のsaa破壊株が細胞付着性を示したことから、saa保有株であってもSaa以外の因子により細胞付着性を示す株が一定数存在することが示唆された。Saaについては、細胞付着形態による付着因子の特定も困難であるため、Saaが起因する細胞付着率については、全付着株を対象に分子生物学的等の手法による追加解析を行う必要性があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
EHECのうち、主要なO血清群のEHEC株のHEp-2細胞への付着率は、研究対象により多少の差はあるものの、74-81%程度であることが国内外の複数の研究報告から明らかとなっている。一方で、saa保有EHEC株の細胞付着率は、主要なO血清群のEHECに比べ10分1程度であることが本研究により明らかになったが、これは想定していた付着率よりはるかに低いことから、HEp-2細胞に付着するsaa保有株の確保に苦慮している。 さらに、細胞に付着した株のうち重症例であるHUS患者由来株2株についてsaa破壊株作製によるSaaの細胞付着性の評価を行った結果、いずれもsaa以外の因子が細胞付着性に関与している可能性が示唆された。HUS患者由来株の細胞付着因子はEHEC感染症の重症化因子の1つである可能性があるため、当該2株の付着因子特定のために、当初の研究計画では予定していなかったHUS患者由来株の完全長配列の取得等の追加解析を行ったことから、予定よりやや遅れている状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
HEp-2細胞への付着が確認された7株のうちsaa破壊株の作製を行っていない5株についてもsaa破壊株の作製を行い、確実にSaaによる付着株の選定を行う。選定された株を供試して改めてHEp-2細胞への感染実験を行い、Saa保有EHEC感染細胞についてトランスクリプトーム解析を行うことで炎症惹起への寄与や未知の遺伝子を含めた発現制御の解明を試みる。またHUS患者由来株を除いた82株については、Ⅰ型線毛による細胞付着を阻害するためマンノース添加培地を用いた条件でのみ細胞付着性試験を実施したが、一部のSaaはマンノース感受性を有しており、マンノース添加培地により細胞付着性が阻害されることが知られているため、改めてマンノース不含培地による解析を実施する。なお、マンノース不含での条件でのみ細胞付着性を示す株が検出された場合は、細胞付着性がⅠ型線毛に起因していないことを確認するため、λ-red recombinationシステムによりⅠ型線毛遺伝子(fim)破壊株の作製を行う。 さらに、saa以外の因子が細胞付着性に関与している可能性が示唆されるHUS患者由来株2株が検出されたことから、当初の研究計画を変更し、トランスポゾンTn5を用いた突然変異誘発による破壊株の作製やTn-seq解析等によりこれらの2株の付着因子同定も進めていく。さらに、ゲノム解析により取得したHUS患者由来株の完全長配列も活用し当該2株の付着因子同定を進めるとともに、これらの完全長配列を使用した論文の作成も行う。
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Causes of Carryover |
重症例であるHUS患者由来株2株について、分子生物学的評価を行った結果、当該2株の付着因子がSaa以外に起因している可能性が示唆されたため、当該2株の付着因子特定も並行して実施したことから、本来実施予定であったマンノース不含培地による細胞付着性試験について、saa保有EHEC株90株のうち8株のみの実施となった。そのため、マンノース感受性Saaの検出を行えなかったことから、マンノース感受性Saaが検出された場合に実施予定であった、λ-red recombinationシステムによるfim破壊株の作製や、必要に応じて実施予定としていた付着菌数の定量による付着性の解析を行えなかったため。 今後は、82株のsaa保有EHEC株についてマンノース不含培地による細胞付着性試験を実施し、マンノース感受性Saaの検出も試みることで解析対象株の拡張を行う。また、細胞への付着性を示したsaa保有EHEC株について、引き続きsaa破壊株の作製による分子生物学的な評価を行うことで適切に菌株の選定を行い、選定された菌株を供試して、トランスクリプトーム解析等を順次実施していく。さらに、追加の検討課題としてHUS患者由来株2株の付着因子特定を試みるため、トランスポゾンTn5を用いた突然変異誘発による破壊株の作製と、作製した破壊株を使用した細胞付着性試験やTn-seq解析等を実施する。
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