2022 Fiscal Year Research-status Report
発がん過程における細胞老化への運命決定の分子基盤解明
Project/Area Number |
22K20816
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中宿 文絵 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (50965887)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | p16 / p21 / 細胞老化 / 発がん |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、腫瘍組織における細胞老化関連遺伝子p16とp21の発現変動が細胞の運命決定に及ぼす影響を明らかにすることである。本年度は、腫瘍組織におけるp16とp21タンパク質の発現変動を明らかにするために、tetOnシステムを用いて全身性に発がん性変異体であるKras G12Dを強制発現し形成した皮膚の腫瘍組織におけるp16およびp21陽性細胞の割合を蛍光染色で評価することを試みた。 研究者らは、これまでにp16およびp21を発現した細胞をGFPで標識するレポーターマウスを作製している。このp21レポーターマウスにおける皮膚腫瘍組織について、過去にp21を発現したことを示すGFP陽性細胞中のp21タンパク質および増殖マーカーKi67の陽性率を定量した。その結果、GFP陽性細胞のうちp21陽性細胞は35.8%、Ki67陽性細胞は25.5%であることがわかった。同様に、p16レポーターマウスに作製した腫瘍においてもp16タンパク質および増殖マーカーKi67の陽性率を定量を試みた。しかしながら、DABによる抗体染色ではp16タンパク質の発現を腫瘍組織で検出することができた一方で、蛍光染色では発現量が検出できなかった。これは、p16タンパク質の発現レベルが低いことが原因であると考え、チラミドシグナル増幅(TSA)によって蛍光染色にてp16タンパク質を検出可能な条件の検討を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に従って、p16およびp21レポーターマウスにおける腫瘍組織のp16およびp21タンパク質の発現を免疫染色にて評価することを試みた。その結果、一度p21を発現したことを示すGFP陽性細胞のうち、35.8%が現在もp21陽性であることがわかった。一方で、38.6%はp21タンパク質を発現しておらず、25.5%は増殖マーカーであるKi67を発現していた。p21レポーターではtamoxifen投与によってp21を発現している細胞をGFPで標識した後2日で腫瘍を採取・解析していることから、p21を発現した細胞の一部は2日以内にp21発現が低下しており、さらに1/4程度はKi67陽性の増殖細胞に転じていることが示唆された。計画上ではp16タンパク質の発現についても同様に、p16およびKi67の割合の変化まで明らかにするとしていたが、p16タンパク質の蛍光染色による検出に問題があることが判明し、条件検討が必要であったためその解析まで至らなかった。現在、計画に従って研究を進めているところであり、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1) 腫瘍組織におけるp16およびp21の発現変動の解析と(2)p16、p21陽性細胞の細胞運命の2点を中心に、検証を行なっていく予定である。 (1)当初の計画に従い、腫瘍においてp16またはp21発現細胞を標識し、その後経時的に腫瘍を採取し、p21とp16陽性および増殖細胞を示すKi67陽性の割合の変化について蛍光免疫染色を用いて評価する。(2)p16またはp21を発現したことを示すGFP陽性細胞の一部は増殖マーカーであるKi67陽性であった。このGFP陽性細胞が実際に増殖し腫瘍形成に寄与しうるのか、その細胞運命をin vitroの培養系を用いて明らかにする。レポーターマウスに形成された腫瘍からオルガノイドを樹立しin vitroでGFP陽性細胞と陰性細胞の増殖能を比較する。
|
Causes of Carryover |
当初の計画では、蛍光染色にて腫瘍組織におけるp16およびp21タンパク質の発現細胞を検出し、陽性細胞の割合を定量することを予定していた。DABによる免疫染色ではp16タンパク質を検出できたものの、通常の蛍光免染では検出できないことが判明した。研究遂行上、p16タンパク質を蛍光染色で検出する必要性があり、チラミドシグナル増幅(TSA)による検出感度を向上のための条件検討に時間を要した。そのため、当初計画していた研究費を全額使用するに至らなかった。今年度は、上述の手法を用いてp16タンパク質とp21タンパク質の経時的な発現変化を定量と、次年度に実施予定のマウス生体を用いた実験を行うために、研究費を繰越して使用し本研究課題を進める。
|