2023 Fiscal Year Research-status Report
血中循環腫瘍細胞におけるDNA脱メチル化異常と膵癌悪性度の研究
Project/Area Number |
22K20835
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
遠藤 裕平 自治医科大学, 医学部, 助教 (40962642)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 膵癌 / DNA脱メチル化異常 / 循環腫瘍細胞 / 循環腫瘍DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
当教室ではゲノム全域のDNA脱メチル化異常が胃癌、大腸癌の発癌過程に深く関わっている事を示してきた。さらに染色体不安定性、転移との関係に着目し、膵癌細胞に異常低メチル化を導入することで染色体不安定性を誘導することに成功し、浸潤性の高い表現型に変化することを実験で明らかにした。さらに、臨床検体を用いた検討で、異常低メチル化の程度が膵癌患者のoccult metastasisの有無、及び生存期間を予測するバイオマーカーになりうることを明らかにした。 一方、当研究室では、腫瘍のゲノムプロファイルの進展・転移、治療の過程における変化を捉えるために、各種癌種における循環遊離DNAの血中モニタリングを行ってきた。術前及び化学療法を行った患者の血漿検体を収集し、デジタルPCRを用いてKRAS血中モニタリングを行った。大腸癌で治療効果判定のみならず、感受性回復を示す薬剤の再導入の指標としての臨床的意義を明らかにし、さらに原発巣と転移巣のKRAS statusの解離に注目し、KRAS statusに基づく新たな治療介入方法の可能性を示した。膵癌では手術群、非手術群の両群においてモニタリング中の循環腫瘍DNA出現は予後不良因子になることを明らかにした。 現在、更なるゲノムプロファイリングの質的向上のため血中循環腫瘍細胞(CTC)を利用した検討を行っている。CTCは極めて微量でまた壊れやすいため、その回収は困難で臨床応用は難しいとされていたが、マイクロ流路チップ内での繰り返しソーティングによる濃縮方法を用いる事で高純度のCTCを分取することが可能となった。また、細胞膜表面に発現する治療標的タンパクの検出、解析を行い、現在切除不能胃癌のHER2を対象として研究を行っている。さらに回収した細胞の全ゲノム増幅を行ったのちに、遺伝子パネルを用いて400強の癌関連遺伝子のゲノムプロファイリングを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
膵癌患者を対象として、CTCのモニタリングからゲノム情報を蓄積し、これを、組織材料、ctDNAから得られるゲノム情報と比較して、転移・浸潤、再発・予後等の臨床情報を元にCTCモニタリングの有用性、実用性を評価することを目的とし研究を進めている。 現在までに、当科で手術または抗癌剤治療を施行した膵癌症例からの解析において、組織材料からは各症例のDNA脱メチル化異常を評価し、ctDNAの解析では、デジタルPCRを用いて各症例のKRAS遺伝子変異を評価している。 CTCに関して、当初、研究解析に耐えうる質・量のCTCを安定して抽出するための準備実験(条件検討や評価基準の設定等)に時間を費やした。CTC抽出精度の評価のため、データのある既存細胞株(HCT116, HT29, NUGC4, H111TC, MKN7等)を用いて解析、検討を行った。臨床検体では、切除不能胃癌で初回化学療法が導入された患者27人のサンプルを抽出しHER2、EMT関連マーカーの解析を行っている。 今後、他の癌腫患者からも安定したCTC抽出を行い、脱メチル化異常やKRAS遺伝子異常の解析、評価を追加しゲノム情報を蓄積し、先の組織材料、ctDNAの解析結果と合わせて、転移・浸潤、再発・予後等の臨床情報と比較し、CTCモニタリングの有用性、実用性を評価していく。
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Strategy for Future Research Activity |
さらなるCTC抽出の安定化を図り、膵癌患者検体での解析を実施する。 回収したCTCは全ゲノム増幅を行ったのちに、遺伝子パネルを用いて409の癌関連遺伝子のゲノムプロファイリングを行う。タンパク発現の検出を行いCENP-Aの発現から染色体不安定性を評価する。またVimentin、ZEB1、SNAL、KLF8の発現から転移浸潤に関わる上皮間葉系移行を評価する。メチル化レベルの解析として、反復配列であるLine-1とsatelliteαを標的とし、メチライト法を行う。顕微鏡での観察にてCTCの数、クラスター形成から生物学的悪性度を評価する。 これらの結果と当教室でこれまでに蓄積した臨床材料(手術検体、生検検体、血液検体)、実験データを用い、また、既報の情報も利用し、膵癌における浸潤性や転移形成、予後等含めた解析、評価を行う。
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Causes of Carryover |
余剰金の発生理由:コロナウイルス感染症の影響で研究が遅延し、実験に臨床検体(患者の組織材料、血液)を使用しているため、都度キットや試薬が必要となるので、適宜物品購入を行っているため。 使用計画:予定されている実験を行うためのキットや試薬購入に使用。
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