2022 Fiscal Year Research-status Report
ヒト老化モデルの小胞体ストレスを介した老化促進機序の解明
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22K20844
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
金子 ひより 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任研究員 (80960799)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ウェルナー症候群 / 小胞体ストレス / 細胞老化 / 異常蛋白 / 化学シャペロン |
Outline of Annual Research Achievements |
超高齢社会の我が国では、老化メカニズムの解明は重要な課題である。 ウェルナー症候群(WS)は常染色体潜性遺伝の早老症であり、思春期以降から種々の老化兆候が促進して出現する。成人以降に症状を示す唯一の遺伝性早老症であり、ヒトの老化のモデル疾患として注目されている。 近年、蛋白質恒常性の破綻は老化を特徴づけるHallmarksの一つと捉えられている。折りたたみ不全蛋白質が蓄積することにより生じる小胞体ストレスは、健常人における白内障、糖尿病、動脈硬化、悪性腫瘍などの老化関連疾患発症に繋がると考えられているが、これらの病態はWSにも共通している。そこで本研究ではWSの老化促進フェノタイプと、折りたたみ不全蛋白質がもたらす小胞体ストレスとの関連を解明することを目的とした。 令和4年度は健常者およびWS患者由来線維芽細胞(WF)を用いてRNA-seqを行い、遺伝子発現を解析した。WFでは小胞体やゴルジ体、リソソーム、各種コラーゲンに関連する遺伝子発現の上昇を認めた。これらの結果からWFではコラーゲンが過剰産生され、変性したコラーゲン、すなわち折りたたみ不全蛋白質が蓄積することで小胞体ストレスをもたらし、その下流のゴルジ体やリソソームに負荷をかけているのではないかと考えた。そこで、健常者由来線維芽細胞およびWS患者由来線維芽細胞(WF)を蛍光色素で標識し変性コラーゲンの有無を比較したところ、WFで有意差をもって変性コラーゲンの増加を認めた。次に酸化ストレスは蛋白質の折りたたみ不全を促すが、酸化ストレス抑制剤であるビタミンCをWFに投与することにより、小胞体ストレスの低下が見られるか否かを解析した。その結果、ビタミンC投与により小胞体ストレス応答蛋白や老化マーカーの遺伝子発現の抑制を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
健常者およびWS患者由来線維芽細胞(WF)のRNA-seqを行い、折りたたみ不全蛋白質の発現プロファイルを解析した。WFでは、各種コラーゲンの遺伝子発現の上昇を認めた。また、蛍光色素による標識では健常者由来線維芽細胞と比較し、WFで変性コラーゲンの蓄積を認め、変性コラーゲンが小胞体ストレスに関与している可能性が考えられた。さらに、WFに対する酸化ストレス抑制剤投与により小胞体ストレス応答蛋白、および老化マーカーの遺伝子発現の低下を認めた。上記より、本研究の申請時の実施計画を順調に遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
小胞体ストレスを抑制する効果を有する化学シャペロンの添加による、折りたたみ不全タンパク質の発現プロファイルの変化を確認する。特に、各種コラーゲンの発現プロファイルの変化の詳細を解析し、WSの老化促進フェノタイプとの関連を解析する。 さらに、WSにおいて臓器ごとの小胞体ストレスの差異を比較するためiPS細胞を間葉系幹細胞や脂肪細胞、血管内皮細胞、マクロファージに分化させ、小胞体ストレスの有無やその抑制による細胞老化の抑制を比較検討する。
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