2022 Fiscal Year Research-status Report
慢性肝疾患におけるPersonalized肝発癌予測リスクモデルの開発
Project/Area Number |
22K20910
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
金子 俊 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座助教 (60801959)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | 肝発癌リスク因子 / 肝細胞癌 / B型慢性肝疾患 / iPS細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1)独自の慢性肝疾患患者のコホートデータベースからB型肝炎関連肝癌に関して有意な背景因子とバイオマーカーを探索する。 (2) HBVゲノムの宿主ゲノムへの組込み好発部位の一つであるKMT2Bに着目し、肝発癌におけるKMT2Bの機能解析を進める。これらの知見を基盤に、(3)発がんリスク評価および精緻なHBV肝癌発癌予測モデルを開発することを目的に研究を行い、本年度の成果として下記を得た。 臨床情報データベースを用いた探索解析として、B型慢性肝疾患における肝細胞癌の解析を行った。当院にてエラストグラフィ(Fibroscan)を施行した352名のB型肝炎陽性症例のうち、HBVキャリア176名と核酸アナログ製剤治療を受けているB型慢性肝疾患症例176名についてHBVの動態と肝発癌リスク因子を調査した。多変量解析では、男性、高齢、血小板数低値、肝硬度を示すLSM値がHCC発症と有意に関連することが明らかになった。さらにLSM値は、肝細胞癌の発生を予測する上で最も高い識別力を示した。これら、男性、年齢、血小板数からなる既報のPAGE-Bスコアは有用であるが、本検討で抽出されたLSM因子を用いると中等度リスク群の中でもさらに層別化された(HR 5.203; 95%CI 1.308-20.8, p=0.019)。B型慢性肝疾患の肝発癌においては肝脂肪量ではなく肝硬度が有用な肝発癌の予測指標となることが明らかとなった(JDDW2023にて発表予定)。 さらにゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞を用いて、発癌病態の一部を再現しうる肝疾患病態解析モデルを構築した。標的領域へHBVゲノムを挿入することによって 新規のヒトiPS細胞株を樹立し、肝細胞系譜に誘導したところ、増殖能と細胞周期関連遺伝子群の発現が有意に高く変化し、肝発癌病態の一部が再現された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度において設定した研究課題は下記の2つであるが、次のように計画を進行した。 (1)独自の慢性肝疾患患者のコホートデータベースからB型肝炎関連肝癌に関して有意な背景因子とバイオマーカーを探索する:研究実績概要にも示すように核酸アナログ製剤治療中B型慢性肝疾患の肝発癌においては、男性、年齢、血小板数、肝硬度といった宿主因子を主とした因子が抽出されること、既存のHBV検査項目では検知できない因子がありうることについても示唆された。平行して進めている基礎的検討においても、肝癌ゲノム情報databaseに基づき、KMT2Bの特定exon領域にHBV integrationがあると相互排他的にこれらの変異はないこと、HBV integrationはKMT2B領域などに集積して多いことが示されている。これらの新規の知見をもとに、次年度も計画を進捗させる予定である。 (2) HBVゲノムの宿主ゲノムへの組込み好発部位の一つであるKMT2Bに着目し、肝発癌におけるKMT2Bの機能解析を進める:この課題に関しては、KMT2B領域への組込みをゲノム編集によって再現したiPS細胞を樹立することに成功し、作成したiPS細胞を肝細胞系譜へ誘導し、iPS-HPCあるいはiPS-Hepとして、形質を比較検討した。Integrationそのものは、iPS細胞からの肝分化に影響は与えなかったが、樹立した肝前駆細胞レベルであるiPS-HPCを用いた解析により、増殖性が亢進していることがわかった。更にマイクロアレイによる網羅的解析においても増殖性亢進を裏付ける解析結果が得られた。これらの知見をもとに、次年度はさらに、その機構に係る詳細な分子機構について解析を進める予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、下記の点に関して、研究を進める予定にしている。 (1)独自の慢性肝疾患患者のコホートデータベースからB型肝炎関連肝癌に関して有意な背景因子とバイオマーカーを探索する:前年度の進捗に基づき、さらに層別化した解析を進める。エラストグラフィ、HBV各種精査を行っている症例をさらに集積し、より精緻な解析を行う。 (2) HBVゲノムの宿主ゲノムへの組込み好発部位の一つであるKMT2Bに着目し、肝発癌におけるKMT2Bの機能解析を進める:引き続いてKMT2B Integrationが増殖亢進をきたすメカニズム解明を行う。特に、既知のKMT2Bの機能と関連する、ヒストンメチル化に着目し、ChIP-PCRなどの解析を進め、その分子機構解明をすすめる。 さらに次年度は(3)発がんリスク評価および精緻なHBV肝癌発癌予測モデルを開発する:現在も経過観察を継続している症例が主であるため、基礎的研究で抽出された標的分子に関しても臨床検体を用いて検証が可能であり、得られた知見が臨床的にも一致するかの検証解析を進める。さらには臨床研究で得られた肝発癌リスクスコアにさらに加える形でより精密なPersonalized肝発癌予測リスクモデルの開発を進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: 試薬等の消耗品が計画当初より廉価で購入可能であったため、廉価な物品を選択して購入したため。 使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を発展させて行うため、当初の計画よりも試薬などの消耗品を増量して購入する予定である。
|
Research Products
(3 results)