2022 Fiscal Year Research-status Report
ヒト骨芽細胞の網羅的抗体ライブラリ作製と発現タンパクに基づく細胞分化の解明
Project/Area Number |
22K20970
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
吉田 和薫 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (60770774)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | 骨芽細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではヒト骨組織検体から分離した骨芽細胞を抗原としてラットを免疫し、抗体産生細胞を得てハイブリドーマを作製することが第一段階となっている。本年度は実験環境の立ち上げと試薬の購入を行い、倫理審査を経て提供された骨検体から骨芽細胞を分離した。しかし、骨から分離できた細胞はごく少数しかなく、完全培地においても生着し増殖する細胞は皆無であった。原因として考えられるのは①手術によって得た骨検体の質が悪い、②骨検体の保管を含めた取り扱いが悪い、③細胞分離の方法が悪いの3つと考えている。①は骨検体採取の対象となるのが変形性股関節症や変形性膝関節症といった高齢者に多い変性疾患であることで、骨芽細胞の数や質が悪い可能性を考えた。実際に採取した骨検体を固定、脱灰したうえで鏡検すると、マウスの検体と比較し単位面積当たりの細胞数が少ない傾向がみられた。②は手術の特性上、採取した骨組織は手術中に骨移植をする可能性があるため術野からすぐに下すことができず、採取してから細胞の分離を開始するまでに時間を要することがあげられる。この間は生食ガーゼなどで乾燥しないように注意しているが細胞レベルでは損傷が生じ、生存細胞数が少なくなっている一因になっていると考えている。また、人工膝関節手術では切除する骨組織が薄く、ボーンソーを用いることで熱による細胞損傷が起きている可能性がある。③については本研究ではマウスでの予備実験と同様のプロトコールでの細胞の分離を試みているが、ヒト検体に最適な方法の調整が必要であると考えている。研究成果は多くないが、来年度に向けての課題の明確化ができたことは最小限の成果であると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究活動のスタートとして研究環境を整え、実際に研究を開始できたことは最低限の成果と考えている。しかし、質の良いヒト骨検体を採取する機会が少なく、実験を行える回数が想定より少なくなってしまった。特に頻度の多い人工膝関節置換術での骨検体は骨切除量によってボーンソーの熱による細胞障害が懸念される。一方で、人工股関節置換術での骨検体として大腿骨頭からの大量の骨組織の採取を想定していたが、再置換術のために同種骨として検体を保管するケースがあり、想定より研究に使える検体が集まらなかった。 加えて上述したヒト骨芽細胞の分離の段階での課題が出てきており、当初予定していた研究計画からは遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度明らかになった課題(①手術によって得た骨検体の質が悪い、②骨検体の保管を含めた取り扱いが悪い、③細胞分離の方法が悪い)に対して①使用する検体の総量を増やし、少ない細胞密度であっても採取できる総細胞数を増やす。そのために少量の骨検体を想定して作製したマウス用のプロトコールの見直しを行い、大容量での分離に耐えうる実験系を構築する。②骨検体の保管について生食ガーゼでの被覆以上に乾燥を軽減するため、生食中での保管を試す。また、分離の段階に入るまでの時間が短くなる検体(骨移植用検体が比較的潤沢に用意できる両側人口膝関節置換術での検体など)を用いてできるだけ採取からの時間経過が短く細胞損傷が少ない検体の使用する。また、ボーンソーでの熱損傷の影響を受けやすい切断面近傍の骨検体を削るなどの工夫でより質の高い検体を使用できるようにする。③マウス骨検体と比較し、高齢患者の骨組織には脂肪が多く含まれており、コラゲナーゼをはじめとする分離用試薬の効果に影響を与えている可能性がある。改善法として清潔なガーゼを用いた物理的な脱脂を行い、試薬への影響を最小限にした状態で分離の工程に入る。
|
Causes of Carryover |
対象となる症例が予想より少なかったため、解析用の試薬をはじめとした消耗品への支出が少なくなった。翌年度に遅れている分の研究を進めるにあたり、当初の予定通りの支出が必要と考えられるため次年度使用額として計上した。
|