2023 Fiscal Year Research-status Report
S.mutansのmembrane vesiclesを対象とした感染性心内膜炎の予防法の開発
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22K20988
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
岩淵 佑介 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 医員 (10963952)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | membrane vesicles / Streptococcus mutans / 感染性心内膜炎 / S.mutans |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、う蝕原性細菌であるStreptococcus mutans(S. mutans)が産生するmembrane vesicles(MVs)に着目し、S. mutansが引き起こす感染性心内膜炎の発症メカニズムにおけるMVsの役割を解明することを目的としている。MVsは細菌が放出する直径20~500nmの膜小胞であり、細菌由来の様々な病原因子を含んでいることから、新たな感染症治療の標的として注目されている。 本年度は、S. mutans UA159株および、S. mutansの菌体表面の糖鎖修飾に関連するSMU833(putative glycosyltransferase)変異株の培養上清から、超遠心分離法によりMVs画分を回収し、それぞれのMVsの性状を電子顕微鏡観察とSDS-PAGEにより詳細に分析した。さらに、各MVsをS. mutansのバイオフィルムに添加したバイオフィルム形成実験を行い、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いてバイオフィルムの生細胞とグルカンの局在を観察した。その結果、SMU833株由来のMVsは、野生株由来のMVsと比較して、病原性因子として知られるグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)の量が少なく、MV依存的なバイオフィルム形成を強く抑制することが示された。 さらに、S. mutansと同様に感染性心内膜炎の原因菌として知られる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)と、S. mutansの混合バイオフィルムを作成し、バイオフィルム形成能の評価を行った。その結果、S. mutans単独でのバイオフィルムと比較して、S. aureusとの混合バイオフィルムではMVsおよび死菌依存的なバイオフィルム形成量の増加が確認された。この結果は、複数の細菌種が関与する感染性心内膜炎の病態形成において、MVsが重要な役割を担っている可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、S. mutansのMVsを用いた感染性心内膜炎発症メカニズムの解明について、より多角的なアプローチで研究を進める予定であったが、変異株の作成に予想以上の時間を要したことが研究の進捗に影響した。また、研究に必要な試薬や器材の入手が遅れたことも実験の進捗に遅れが生じた原因の一つである。しかしながら、MVsの性状解析やバイオフィルム形成への影響評価については概ね順調に進めることができたため、全体としては研究計画をある程度遂行できていると考えている。今後は、これまでに得られた知見を基に、感染性心内膜炎発症メカニズムの解明に向けて、さらなる実験の最適化とデータの解析を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
MVsとヒト血管内皮細胞との相互作用を明らかにするために、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)などの初代培養内皮細胞やヒト血管内皮細胞株を用いた共培養実験を行う。MVsを細胞に添加し、一定時間後にMVsの細胞への付着や侵入を蛍光標識したMVsを用いた共焦点レーザー顕微鏡観察により可視化する。また、MVsが内皮細胞に及ぼす影響を評価するため、共培養後の細胞からRNAを抽出し、炎症性サイトカインや接着分子などの発現変動をリアルタイムPCRにより解析する。さらに、培養上清中のサイトカインタンパク質濃度をELISA法により定量し、MVsによる炎症応答の誘導を確認する。MVsと内皮細胞の相互作用に関与する分子の同定を試みる。MVsの細胞への付着や侵入に関わる表面分子を探索するため、MVsを酵素処理することで表面タンパク質を除去または修飾し、内皮細胞への付着や侵入への影響を評価する。また、阻害抗体やsiRNAを用いて、内皮細胞側の受容体や細胞内シグナル伝達分子の関与を検討する。MVs中の病原性因子を同定するために、質量分析技術を用いたMVsの網羅的解析を行う。MVsに含まれるタンパク質についてはショットガンプロテオミクスにより同定し、病原性に関与すると予想されるタンパク質の局在を免疫電子顕微鏡により確認する。感染性心内膜炎の原因菌とされる口腔細菌との共培養を行い、MVsを介した相互作用について検討する。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、当初の計画通りに研究を進めることを目指したが、研究室の立ち上げに予想以上の時間を要したことや、必要な実験機器の導入が遅れたことなどから、研究費の一部を次年度に繰り越すこととなった。特に、S. mutans の遺伝子変異株の作成においては、目的とする変異を持つ株の取得に困難を伴い、スケジュールに大幅な遅れが生じた。以上より、ヒト細胞培養などの実験は次年度に繰り越すこととなった。
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Research Products
(2 results)