2022 Fiscal Year Research-status Report
なぜ呼吸器感染症予防に口腔ケアが有効なのか? ―分子生物学的根拠の提示―
Project/Area Number |
22K21002
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高橋 佑和 日本大学, 歯学部, ポスト・ドクトラル・フェロー (50962601)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | SARS-CoV-2 / COVID-19 / 歯周病原菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
誤嚥性肺炎やSARS-CoV-2により発症する新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) などの呼吸器感染症により、多くの高齢者の命が奪われている。そのため、超高齢社会を迎えた我が国において、呼吸器感染症予防対策の構築は重要である。呼吸器感染症の発症・重症化に、歯周病や不良な口腔衛生状態が悪影響を及ぼしているとの報告が臨床研究により多数されている。歯周病患者では、肺炎のリスクが高く肺から口腔細菌が検出されること、さらにCOVID-19の死亡率が有意に高いことが報告されている。とくに誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが有効であることから、高齢者施設や周術期において多職種連携による口腔健康管理が積極的に行なわれるようになった。しかしながら、口腔と呼吸器感染症は密接に関連していることは明らかなものの、なぜ不良な口腔衛生状態が呼吸器感染症の発症・重症化を促進させるのか、その分子生物学的背景は明らかではない。 申請者は、口腔の健康を維持することが呼吸器感染症の予防対策として有効であることを示す分子基盤の確立を目指してきた。その成果の一つとして、SARS-CoV-2の受容体であるアンジオテンシン変換酵素2 (ACE2) の発現が、歯周病原菌Fusobacterium nucleatumの刺激で亢進されることを初めて明らかにした。また、歯周病原菌Porphyromonas gingivalisの線毛が肺炎の発症・進展に重要な役割を果たしていることも明らかにした。申請者の研究により口腔細菌が呼吸器感染症に悪影響を及ぼす分子メカニズムが明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、健康な口腔が呼吸器感染症の予防につながるメカニズムを、分子レベルで説明するために研究を行なってきた。医科領域における歯科医療の重要性を高め、さらなる医科歯科連携の推進を、そして国民の健康増進につながることを期待し、研究活動に従事している。 COVID-19に関しては、SARS-CoV-2の受容体であるACE2の発現を、歯周病原菌 Fusobacterium nucleatumが亢進させることをより詳細に明らかにするために動物実験を行い、現在解析中である。 また、誤嚥性肺炎に関しては、歯周病原菌Porphyromonas gingivalisの線毛が呼吸器に及ぼす影響を明らかにし、さらに、歯周病原菌の刺激が呼吸器細胞から炎症性サイトカインIL-8の産生を増強させることを学会にて発表した。 さらに、歯周病原菌が他の作用機序で呼吸器疾患を増悪させる可能性を検討し、肺のバリア機能を破壊する事を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.SARS-CoV-2の感染に歯周病原菌が及ぼす影響:ACE2との結合に関わるSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を発現させた偽型レンチウイルスを用いて、ヒト呼吸器細胞株への感染実験を行ない感染状態の評価を細胞実験および動物実験で行う予定である。 2.歯周病原菌誤嚥マウスを用いた肺炎発症メカニズムの解明:P. gingivalis線毛欠損株をマウスに誤嚥させ、その際の経時的な体重変動および生存率の解析を行い、また肺における炎症細胞の浸潤状態の観察、気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中の菌数および炎症性サイトカイン量の測定、血清中の炎症性サイトカイン量の測定を行なう予定である。 3.口腔ケアによる高齢者喀痰・唾液中の炎症メディエーター量などの変化:高齢者施設や大学病院において、口腔ケア介入前後での喀痰および唾液を採取する。喀痰および唾液中の炎症メディエーター量、歯周病原菌を含む口腔細菌数、および炎症細胞数について口腔ケア介入前後での変化についてを解析する予定である。なお、現在、サンプル回収に着手している。
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Causes of Carryover |
研究を遂行するにあたり、新型コロナウイルス感染症蔓延時期や研究施設の新校舎への移動後の環境整理などにより予想以上に研究場所・時間が取れず、また学会発表に関してもオンライン開催があったため当初使用予定であった予算を使用できなかった。 次年度への繰越金は、細胞実験、特にレンチウイルスを使用したよりSARS-CoV-2に近い環境での歯周病原菌の為害性を検討すると共に、動物実験と臨床実験に使用する予定である。
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