2022 Fiscal Year Research-status Report
看護師の根拠に基づく実践の継続のための組織学習活動促進プログラム構築の基礎研究
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22K21079
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 馨子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (90936428)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | Evidence-based practice / 実装戦略 / 組織学習 / 実装科学 / 看護師 / 組織運営 / 質的比較分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
病院が採用した科学的根拠に基づく実践(Evidence-based practice:以下、EBP)は、必ずしも継続的に実施されず、形骸的に実施される場合もある。病院が導入したEBPを看護職一人ひとりが継続的に実施するための取り組みや支援が必要である。その一つとして、部署の組織学習活動(EBPの継続につながる集団の学習活動)があり、病院の各部署が、組織学習活動を行うことで、部署の看護職のEBPの内在化(部署全体でEBPの根拠と意義を理解し、肯定的態度をもって実践に取り組んでいる状態)が高まり、看護職のEBPの継続的な実施につながる可能性がある。本研究は、病院が採用したEBPに対する部署の組織学習活動を高める/低下させる要因と条件を特定し、EBP継続のための部署の組織学習活動への影響を検証することを目的とする。本研究により、EBPを行う部署が組織学習活動を行うための諸条件が明らかとなり、活動促進に向けた実装戦略構築や教育プログラム開発に寄与できる。 初年度は、調査1として、病院が採用したEBPについて各部署が行う組織学習活動を高める/低下させる要因の抽出を目的として、病院が採用したEBPを実施する部署の看護職(看護管理者と看護職)を対象に、オンラインのグループインタビューを実施した。インタビューで尋ねるEBPは部署ごとに事前に選定し、組織学習活動の対象EBPとした。インタビューは、インタビューガイドに沿って、対象EBPに対する部署の組織学習活動を高める要因や阻害する要因、必要な資源や支援等を尋ねた。また参加者には、アンケートにより自身が認識する自部署の組織学習活動の程度を測る集団の組織学習活動尺度と個人属性を尋ねた。 本研究に関連して、集団の組織学習活動尺度の開発、集団の組織学習活動とEBPの継続的な実施に対するEBPの内在化の媒介メカニズムについて国内学会と国際学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属施設倫理委員会の承認後、2022年11月より調査1のグループインタビューのリクルートを開始した。2023年3月までに全国の200床以上の病院のうち500施設に依頼状を送付し、2施設2部署から承諾を得た。インタビューで組織学習の活動として尋ねるEBPは、2つが選定された。各病院が採用したEBPを実施している部署の看護職8名を対象にオンラインのグループインタビューを実施した。各参加者には、事前にインタビューガイドを送付し、部署の組織学習活動の対象とするEBPと組織学習の各活動の内容を提示した。インタビュー時間は研究説明と同意取得時間を含めて90分程とした。インタビューでは、研究者がファシリテーターとなり、部署での組織学習活動の実施状況、実施を促す要因として考えられることや、活動を阻害すること等を話していただいた。グループインタビューを選択したことで、参加者は他者の経験を知り、個人だけでは気が付かない要因や部署の問題に気が付くきっかけとなっていた。 一方、計画時に予定した各部署への参与観察は、感染症管理の観点から不同意の施設が多く、実施できていない。昨今の感染症流行の状況と参加施設への負担を考慮し、初年度の調査1では参与観察は実施せず、インタビューおよび関係資料の収集のみに予定を変更した。また参加施設のリクルートも難渋し、計画時の想定より対象施設数および対象者数を確保できていない。依頼状を送付した施設の感染症対策の問題や年度末による病院の繁忙期と重なったことが原因と考えらる。今後は機縁法によるリクルートも行い、リクルートを継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
<調査1:参与観察>調査1では、対象EBPの実践者が認識する一側面的な要因ではなく、対象EBPを実施する部署でのEBPの実践や組織学習活動の状況、個人の行動や他者との関係、環境要因なども含めた組織学習活動の促進/阻害要因を複合的に検討する。そのため調査1では、グループインタビューに加えて部署の参与観察も計画した。しかし、これまでに参与観察への参加同意施設はない。これは調査1リクルート開始時期が、国内のCOVID-19第8波のピーク時と重なっていたため、施設側の負担が大きくなることが懸念されたためと考える。感染症の状況を考慮しつつ、引き続き参与観察のリクルートも継続する。 <調査1:グループインタビュー>調査1では、部署の組織学習活動の要因について包括的に情報を収集するために、グループインタビューの対象者は看護職だけではなく、対象部署でEBPの実施に関わる医師や薬剤師、理学療法士などの多職種を含めている。しかし、これまでの参加者は看護職のみ(看護管理者・看護職)であり、看護職の認識する部署の組織学習活動の促進要因/阻害要因しか収集できていない。今後は、対象EBPの実施に関わる他職種の参加者が得られるようにリクルートを工夫し、幅広い関係者にインタビューできるようにする。グループインタビューの目標数は最低5部署各5名程の参加を想定している。機縁法も併用したリクルートを継続し、2023年度8月迄にインタビュー完了、10月迄に分析終了を目指す。 <調査2:Webアンケート>2023年9月より調査2リクルートを始める。分析計画は、質的内容分析を第一候補とする。一方、分析結果の妥当性と信頼性の確認、複雑な交互作用を考慮した多変量解析の必要性も想定される。そのため、対象は全国の200床以上の病院に勤務する部署の看護管理者2,000名、看護職4,000名を予定する。調査期間は1か月間を予定する。
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Causes of Carryover |
調査1グループインタビューのリクルートが進まず、当初の参加人数よりも実施人数が少なく、謝金の支払額が少なかったため。
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Remarks |
本研究に関連する3つの論文を国際誌に投稿し、2つが査読中。“集団の組織学習活動尺度の開発と妥当性信頼性の検証”(Journal of Nursing Management), “集団の組織学習活動と看護職のEBPの継続に対するEBPの内在化の媒介効果の検証”(Journal of Health Organization and Management).
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Research Products
(3 results)