2022 Fiscal Year Research-status Report
脊髄損傷後の運動機能回復に関わる外部刺激効果特性の解明
Project/Area Number |
22K21240
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上野 里子 京都大学, 高等研究院, 特定研究員 (50967536)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 運動機能回復 / リハビリテーション / 把持運動 / 電気刺激 / ウイルストレーサー |
Outline of Annual Research Achievements |
脊髄損傷により損なわれた運動機能に対して、リハビリテーションや大脳皮質への電気刺激など外部から刺激を与えることで、運動機能が回復しうることが知られている。これらの運動機能回復の基盤として、回復過程における神経回路の可塑的な変化が生じることが示唆されている。しかし、外部刺激のどのような特性が運動機能回復をもたらす神経経路の可塑性を誘導しているのかは明らかになっていない。そこで本研究では、脊髄損傷後の神経経路の再編成を誘導するためのトリガーとなる外部刺激を明らかにすることを目的とし、ラットを用いて(1)脊髄損傷モデルの作成、(2)運動機能の評価およびリハビリテーションとしての行動実験、(3)大脳皮質運動野の電気刺激実験、さらには(4)ウイルストレーサーの注入による神経経路の標識という複数の実験を組み合わせることを計画している。 これまでに、(1)脊髄への損傷作成において、外科的手術によるラットへの負担を最小限にとどめるために麻酔方法や損傷作成方法を検討し、頚髄C5/6レベルにおける脊髄半切により、想定通り損傷側前肢に麻痺が生じることを確認した。また、(2)ラットに把持運動をトレーニングし、損傷前後の運動機能を評価する準備を整えた。さらに(3)大脳皮質運動野の電気刺激を行うためにラットのサイズに合わせたマイクロECoG電極を入手し、麻酔下でテスト実験を行った。(4)神経経路の標識については、脊髄への逆行性ウイルストレーサーの予備実験を行い、注入領域に投射する神経経路を標識することに成功した。現在、これらの実験を組み合わせるべく準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、把持運動を課題とする行動実験、頚髄半切による損傷作成、大脳皮質運動野の電気刺激、ウイルストレーサーの注入について、それぞれ複数のラットを用いて条件検討を行った。特に、運動機能回復の指標であると同時に1つ目の外部刺激となる行動実験について、運動機能の評価に適した課題の難易度を設定するために実験装置などの改良が必要になり、条件設定に想定より時間を要した。また、損傷の作成に伴う外科的処置に際して、当初ラットへの負担が大きかったことから、損傷レベルや術式などを検討する必要があった。現在は、作成した損傷による前肢の麻痺は認められるものの良好な健康状態でラットを維持することができている。2つ目の外部刺激となる大脳皮質運動野への電気刺激については、マイクロECoG電極を用いたテスト実験において、麻酔下における運動野の電気刺激により刺激反対側の前肢において筋収縮を認めた。ウイルストレーサーによる神経経路の標識について、テスト個体を用いて前肢の運動を司る神経線維が投射する頚髄C6/7レベルにAAV2retro-CAGGS-EGFPを注入し、注入後2週間程度で摘出した脳・脊髄標本においてGFPが発現していることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに条件検討を行った個々の実験を組み合わせる。トレーニングにより把持運動を習得したラットについて、大脳皮質運動野にマイクロECoG電極を留置し、さらに頚髄C5/6 レベルにおける脊髄損傷を作成する。把持運動を課題とした行動実験と大脳皮質運動野の電気刺激実験を行い、損傷前後の運動機能を評価する。運動機能回復が飽和した段階で、ウイルストレーサーの注入により前肢の運動を司る神経経路を標識する。注入から2週間後に脳脊髄を採取し、免疫組織染色により神経経路の投射様式を解析する。 さらに、損傷後に施す外部刺激の条件として、運動機能の評価としてのみ行動実験を行い大脳皮質への電気刺激を行う個体と、大脳皮質電気刺激は行わず行動実験をリハビリテーションとして集中的に行う個体についてそれぞれ実験を進め、両者の結果を解析する。
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Causes of Carryover |
実験装置について、所属研究室で共有できる装置が当初の予定より多く、設備備品にかかる費用を抑えることができた。一方、実験の条件検討のために実験動物や試薬、手術用品などを多く使用したため、次年度はこれらの消耗品を追加で購入するとともに、研究成果報告のために研究経費を使用する計画である。
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