2022 Fiscal Year Research-status Report
微生物生態学と動物行動学によって「人と動物と微生物」の適切な関係を探る
Project/Area Number |
22K21327
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
早川 昌志 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 特任研究員 (60963808)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 微生物生態学 / 動物行動学 / ホッキョクグマ / 共生 / 藻類 / サンプリング’ / 微細構造 / 顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
天王寺動物園との共同研究によって、飼育ホッキョクグマ舎の飼育水のプランクトン調査、およびホッキョクグマの毛の内部に片利共生している藻類の顕微鏡観察、および藻類の単離培養をおこなった。ホッキョクグマの毛の内部における藻類の共生は、本来の生息地域ではない、温帯地方において飼育した結果によるもので、人と動物と微生物の関係の結果創出された共生現象のモデルケースとなりうるものである。 動物の毛や鳥の羽の構造と、微生物の定着様式を調査するため、複数種の動物・鳥の、毛および羽のサンプルを収集し、微細構造の顕微鏡観察をおこなった。 飼育ホッキョクグマの行動と、藻類の定着との関連について調べるため、行動パターンの動画撮影、藻が定着している領域の写真撮影をおこなった。 人間の活動が顕著に見られる京都洛北におけるサンプリング調査も継続的に行い、プランクトンの季節変動を目的とした本研究のものとして記録した。 人間の活動は水質に影響を与えるが、それらの水質の浄化に貢献しているのが、下水処理場における活性汚泥である。活性汚泥において頻繁に見られる原生動物種のスピロストマムについて、島根大学と北海道大学との共同研究として、スピロストマムにおける環境変動に対する応答反応の一つである再生現象について、トランスクリプトームによる発現比較のための遺伝子抽出をおこなった。本研究では、生態学的な微生物の移動を知ることを目的としており、その際の環境変動のダイナミクスを知るための足掛かりとなることを期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)動物園におけるサンプリング調査:動物の行動と環境微生物との関係を探る:天王寺動物園との共同研究によって、ホッキョクグマ舎の水サンプルのプランクトン観察をおこなった。また、天王寺動物園と天王寺高校との共同研究によって、複数種の動物舎におけるプランクトン調査をおこなった。結果、飼育動物種の違いによるプランクトン組成の違いが見られた。したがって、この研究については、順調に進捗している。 (2)野外フィールドにおけるサンプリング調査:本研究課題がスタートしたのは秋からであり、秋期・冬期は、プランクトンのブルームは少ない。可能な範囲でサンプリング調査をしているが、本格的にプランクトンのブルームが盛んになる春・夏におけるサンプリング調査の結果も踏まえて、今後進捗は総合的に判断できるだろう。季節的な問題点も含めて、順調に進捗している。 (3)動物的環境における共培養実験:今年度は、毛サンプルの収集、藻類の培養に重点を置いた。したがって、共培養実験そのものは本格的に始動できていないが、そのためのサンプル収集・培養株の作成には達成した。したがって、来年度の共培養実験を速やかに達成できる環境は整ったので、順調に進捗しているといえる。 また、上記の研究テーマをさらに深めるため、人の生活との関わりも深いスピロストマムの遺伝子抽出もおこなった。来年度はスピロストマムやこれらの遺伝子解析との比較する結果も踏まえた予想以上の研究が期待されるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
共培養実験を重点的におこなっていく。実験室下において、動物への微生物の定着様式を明らかにすることで、野外環境における動物による微生物の拡散のメカニズムに迫る。 プランクトンのブルームがピークとなる夏季に集中したプランクトン調査を実施する。全国各地の動物園とも連携しながら、飼育水の調査、野外における淡水地域の調査をおこなっていく。また、その際に、動物の行動観察も行い、微生物の定着と関わるような動物の行動も抽出したい。 スピロストマムおよびホッキョクグマの毛より単離、培養確立した藻類の遺伝子解析を、島根大学・北海道大学との共同研究も通じて深めていく。これらの遺伝子データから、人為や動物の行動、季節変化などによる環境変動に対する微生物の応答の遺伝的メカニズムを見出したい。 以上の研究の方針によって得られた結果を総合的に組み合わせ、「人と動物と微生物の相互関係」を明らかにし、本研究の最終目標である「人と動物と微生物の適切な関係を探る」ための議論へとつなげたい。 また、科学コミュニケーションの実践を利用して、人から見た動物の見え方、人から見た微生物の見え方についても調査し、人と動物と微生物の関係性に関する、人々の意識や実際の行動について抽出し、人為がどのように動物や微生物に影響を与えているのか、ワンヘルスやSDGsとも関わる自然共生システムの意義を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
残額が微額のため。
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Research Products
(6 results)