2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21F21319
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡部 直樹 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50271531)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
NGUYEN THANH 北海道大学, 低温科学研究所, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2021-11-18 – 2024-03-31
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Keywords | 星間塵 / 表面反応 / 有機硫黄分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,極低温の星間塵表面における有機硫黄分子の化学反応を実験的に調べることを目的としている。本年は,硫黄を含む化合物の中で唯一固体として検出されている星間分子:硫化カルボニル(OCS)に着目し,星間塵表面でのH原子との反応性を調べた。真空中で10ケルビンに冷却したアモルファスH2O氷上に固体OCSを作製し,水素原子と反応させたところ,生成物としてCO, H2S, H2CO, およびCH3OHが検出された。量子化学計算により,氷とOCS分子の結合エネルギーや各種表面反応の活性化エネルギーを求めたところ,これらを生成する過程として,OCS + H → OCSHが始めに生じ,その後,さらに水素原子付加反応 OCSH + H → H2S + COが生じる連続反応であることがわかった。H2CO, CH3OHは左記の反応で生成したCOにH原子がさらに逐次付加して生成したものである。また,最近の天文観測で星間空間に見つかっているHC(O)SHが,氷星間塵表面でHCOとSHラジカルとの反応により生成しうることが初めて示唆された。この反応経路はこれまで知られていなかった新たな生成機構を示すものである。また,本研究により,比較的な簡単なOCS分子から,外部からのエネルギーを必要としないH原子付加反応により,多様な分子が生成されることが分かった。また,S含有物として,もっとも存在度が高いと思われるH2Sが最終生成物として残ることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初からの目的であった,星間塵表面における有機硫黄分子の反応の一つであるOCSを用いた実験を行い,論文として発表することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
硫黄含む星間分子の一つ,メチルメルカプタン(CH3SH)は理論研究で氷星間塵上での一硫化炭素(CS)への逐次水素付加反応で生成すると考えられている。そのため,生成後は極低温のチリ表面で固体として存在するはずである。しかし,実際の星間分子雲ではガスとしてのみ検出されている。これらを説明するためには,極低温の氷星間塵表面から何らかのプロセスで脱離する必要がある。本研究では,メチルメルカプタン生成時の反応性脱離について,模擬実験と量子化学計算を遂行し,そのガス化メカニズムを明らかにする。また,別の硫黄含有星間分子であるチオホルムアルデヒド(H2CS)やチオギ酸(HCOSH)の氷星間塵上での反応性も解析する。これら2種の化合物は一般的に市販されていないため,実験室で独自に合成し,反応実験の材料として用いる。硫黄を含む分子はメタノールやホルムアルデヒド,ギ酸など,酸素を含む有機分子とは異なる反応性を示すことが多い。そのため,これらの化合物の反応性を検証することは星間化学だけでなく物理化学的な観点でも興味深い。反応の解析にはおもに赤外分光光度計,四重極型質量分析計を用いる。
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Research Products
(3 results)