2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidating the importance of anthropogenic iron deposition from the atmosphere to the ocean
Project/Area Number |
22F22092
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松井 仁志 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (50549508)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
LIU MINGXU 名古屋大学, 環境学研究科, 外国人特別研究員
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | 気候変動 / エアロゾル / 人為起源鉄 / 全球モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
大気中の微粒子(エアロゾル)に含まれる鉄は、外洋域まで輸送されたのちに海洋に沈着すると海洋表層の生物一次生産を変化させ、地球の炭素循環や長期的な気候変化に影響を及ぼす。本研究では、新たな広域航空機観測データと全球エアロゾルモデルの計算を組み合わせることで、化石燃料の燃焼等の人間活動によって大気に放出する粒子に含まれる鉄(人為起源鉄)の外洋域における大気濃度と沈着量の推定を高度化する。また、将来の人為起源鉄の放出量推計データを作成し、外洋域における可溶性鉄の沈着量とその放出源寄与の将来変化を予測する。 令和4年度は、これまで申請者と受入研究者が使用してきた全球エアロゾルモデルCAM-ATRASに、人為起源、バイオマス燃焼起源、土壌起源の鉄粒子を導入し、これらの成分の放出・輸送・除去過程を計算できる数値モデルを開発した。人為起源鉄については、マグネタイトやヘマタイトなど5つの鉱物組成を考慮した。次に、米国コロラド州立大学が近年作成した人為起源鉄の全球放出量データを用い、2009年から2018年の全球モデル計算を行った。そして、南大洋域における人為起源鉄の質量濃度の鉛直分布や鉛直積算濃度について、広域航空機観測(HIPPO、ATom航空機観測)と数値モデル計算の比較を行った。その結果、モデル計算では観測された人為起源マグネタイトの質量濃度を大きく(1桁程度)過小推定している海域・高度があり、南アフリカなどで人為起源鉄の放出量を過小推定していることを示唆した。 また、人為起源鉄と同様の放出源を持つと考えられる黒色炭素粒子の将来放出量シナリオ(SSPシナリオ)を基に、将来の人為起源鉄の放出量データを作成した。2100年の放出量データを用いた計算を実施し、南大洋域における将来(2100年)の可溶性鉄の全沈着量が現在と比べて20~50%程度減少することを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、我々がこれまで開発してきた気候モデル(CAM-ATRAS)に、人為起源、バイオマス燃焼起源、土壌起源の鉄粒子を導入し、これらの放出・輸送・除去過程を計算できるようにした。また、このモデル計算と最新の航空機観測を比較することによって、南大洋域の人為起源鉄が依然として大きく過小推定されていることを示した。さらに、南大洋域への鉄沈着過程の将来予測を行い、人為起源鉄が将来的に減少していくことによって可溶性鉄の全沈着量も大きく減少することを予測した。現在から将来にかけての可溶性鉄の沈着量の減少は、海洋による大気中の二酸化炭素の吸収を抑制し、将来の地球温暖化の加速に寄与する可能性がある。これらの成果を気候科学分野のハイインパクトファクター雑誌npj Climate and Atmospheric Science(IF=9.448)に出版した。 これらの理由から本課題はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においても、我々の気候モデル(CAM-ATRAS)をベースとしたモデル開発・検証を継続する。まず、人為起源、バイオマス燃焼起源、土壌起源のそれぞれの鉄粒子について、大気中での不溶性鉄から可溶性鉄への変質過程をCAM-ATRASに導入する。可溶性鉄への変質速度は、粒子の酸性度(pH)や有機物濃度に依存し、鉄粒子の起源によって大きく異なることが実験・観測によって知られており、これらの先行研究に基づいて可溶性鉄の変質モデルを開発する。このモデルを用いて、外洋域における人為起源、バイオマス燃焼起源、土壌起源の可溶性鉄の質量濃度を推定する。そして、外洋域における人為起源の可溶性鉄の沈着量と、それが全可溶性鉄(人為起源+バイオマス燃焼起源+土壌起源)に占める寄与を評価する。 また、鉄沈着量の推定に対する不確定要素として、鉄粒子が放出する際の粒径分布の不確定性に着目した解析を行う。大気中の微粒子は重力による沈降や雲・降水過程による除去過程によって、大きな粒子ほど大気中から除去されやすく、小さい粒子ほど大気中に浮遊する時間が長くなる。そのため、小さな放出粒径の鉄粒子ほど放出源から外洋域まで運ばれやすくなり、可溶性鉄の沈着量の推定に影響を及ぼす。そこで、鉄粒子が放出する際の粒径分布を現状の不確定性の範囲内で変化させる感度実験を行い、海洋への可溶性鉄の沈着量に対する放出時の粒径分布の重要性を評価する。
|