2021 Fiscal Year Annual Research Report
SiCフォトニックナノ共振器を用いた高度な光制御の研究
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21F51048
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浅野 卓 京都大学, 工学研究科, 准教授 (30332729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KIM HEUNGJOON 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2021-11-18 – 2024-03-31
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Keywords | フォトニック結晶 / シリコンカーバイド / ナノ共振器 / カラーセンター / 量子光学 |
Outline of Annual Research Achievements |
Siを用いた光回路は、光通信波長帯域における高度な光情報処理を可能にするための基礎技術として注目を集めているが、バンドギャップが1.1eV程度であるため、1μm以下の波長域では利用できない。これに対してバンドギャップが3.2eVと大きく、かつSiの加工技術を流用可能なSiCは広帯域動作する微小光回路の実現に適している。またSiCには単一光子源やスピン-光子インターフェースに利用可能なカラーセンターが存在し、これを高Q値光ナノ共振器中に配置できれば、その発光・吸収を大幅に増強できる。近年SiC中のカラーセンターの中で、Si空孔(発光波長0.8~1.0μm)が着目されており、その中でも特にスピンコヒーレンス時間の観点からV2センターが注目されている。V2センターは、通常のSiC基板ではc軸(TM偏光方向)に双極子モーメントを持つため、その発光増強にはTM偏光の共振器が必要である。そこで本年度の研究では、TM偏光で動作するSiC光ナノ共振器の設計とその作製条件の検討を行った。 TM偏光での動作が可能なナノ共振器としては1次元ナノビーム型PC共振器がある。これはV2センターの発光増強には有効であるが、これを発展させて共振器や導波路を組み合わせた複雑な量子光回路を構成することは困難である。そこで、2次PCにおいて誘電体柱型PC層と空気孔型PC層を融合させた、TEとTMの両方のPBG(完全PBG)を持つ2層PCスラブ構造を考案した。そして構造パラメータを最適化することで、7%という大きな完全PBGを得ることに成功した。また本構造に欠陥を導入することでQ値10^6、モード体積2.7(λ/n)^3のTM-like偏光ナノ共振器と,広帯域な光導波路を設計することに成功した。また本構造を0.8~1.0μmの共振波長で作製するためのプロセス条件の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SiCカラーセンターは、単一光子源やスピン光子インターフェースの実現に有望な量子エミッターである。しかしフォノンとの相互作用のないカラーセンター単体の発光であるゼロフォノンライン(ZPL)は通常発光が弱く、共振器を用いた発光の増強が必要である。特にV2タイプのSi欠陥を利用するにはTM偏光で動作する0.8~1.0μm帯の共振器が必要である。 その際、光量子回路への発展を考慮すると2次元フォトニック結晶(PC)の利用が望ましいが、SiCはSiより屈折率が低いため、通常の孔型2次元PCではTM偏光の制御ができない。本年は新たに柱/孔2層型のPCを考案することで、TM偏光で動作するSiCナノ共振器を見出し、Q値~10^6、モード体積~2.7(λ/n)^3 という微小かつ高Q値な共振器の設計に成功した。さらに、本構造を作製する加工条件のめどをつけた。よって研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は本年度設計した共振器を作製し、その後、発光の増強、光回路への展開を行う。 1. 薄膜 SiC-on-insulator(SiCOI)ウェハを用いて2層SiC-PCナノ共振器を作製する。ここでは、支持Si基板、犠牲SiO2層、SiC薄膜からなるSiCOIウェハを使用する。昨年度バルクSiCで確立した作製条件をSiCOIウェハに適用し、さらにプロセス条件を最適化する。 2. 0.8~1.0μmの短波長域を測定できる光学系を構築する。そして、作製したSiCナノ共振器の光学特性(PBG範囲、共振波長、偏光、Q値など)を実験的に検証する。また、実験データと理論結果を比較し、両者の差異を解析する。 3. ナノ共振器の作製に用いるSiCOIウェハに、イオン注入を行い、そのプロセス条件を詳しく検討して適切な密度のカラーセンターを形成する。そして、カラーセンターのZPL波長、偏光、寿命などの光学特性を測定する。 4. カラーセンターのZPL波長付近にSiCナノ共振器の共鳴波長を合わせるための作製条件を検討する。次に、ナノ共振器の共振波長を精密に制御するためのマイクロヒーターを設計・作製する。そしてヒータ加熱による波長制御をもちいて正確なZPL遷移波長で共振器とカラーセンターを共鳴させ、光子放出が増強されることを実証する。光子相関測定も行う。 5. 外部レーザー光を共振器に効率的に結合し、かつ共振器から効率よく光子を取り出すために、2層構造のPCに導波路を設計・作製する。この導波路をナノ共振器近傍に集積化することにより、効率的な単一光子源やそれを用いた光量子回路実現のための基礎的知見を得ることを目指す。
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