2023 Fiscal Year Research-status Report
細胞傷害性がん治療法による残存がん細胞の再生メカニズムの解明と標的化
Project/Area Number |
22KF0212
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
COPPO ROBERTO 京都大学, 医学研究科, 外国人特別研究員
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
Keywords | がん / 多様性 / 可塑性 / 増殖運命 / 薬剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在のがん治療法は、主に増殖の速い細胞を標的としており、治療抵抗性に寄与する可能性のある静止細胞や増殖の遅い細胞の重要性は見落とされてきた。我々は、ヒト大腸癌(CRC)オルガノイドにおける単一細胞の増殖運命を追跡し、緩慢増殖細胞を単離するためのプロトコールを確立して論文発表した(Coppo 2023 iScience, Coppo 2023 STAR Protocols)。昨年度は、CRC細胞の緩慢増殖細胞における遺伝的脆弱性を同定するためにCRISPRドロップアウトスクリーンを行った。まず、安定したCas9発現を有するCRCオルガノイド株を樹立した。その後、GFPを標的とするgRNAを用いたレポーター系を用いてCas9活性を確認した。並行して、エピジェネティック制御因子、RNA-seq解析で同定された緩慢増殖細胞特異的遺伝子、コントロールとしての生存必須遺伝子を含む、合計367遺伝子を標的とする2241個のgRNA(1遺伝子あたり約6個のgRNA)からなるCRISPRライブラリーを設計した。レンチウイルスgRNAライブラリーの導入率を1gRNAあたり1ウイルスとするため、Cas9発現細胞への感染効率が30%となるようにウイルスの滴定を行った。その後、適切な濃度のレンチウイルスgRNAライブラリーをオルガノイドに形質導入した。ピューロマイシンで選択後、緩慢増殖細胞の生存に必須の遺伝子を選別するために、次世代シーケンサーを用いてgRNAの含有量を決定した。さらに、化学療法剤の効果を増強する遺伝子を同定するため、5-FUとの併用も行った。いずれも有意に枯渇した遺伝子が同定され、現在、親株のCRCオルガノイドにおける遺伝学的および薬理学的阻害効果を検証中である。この結果は、分離された緩慢増殖細胞が新しい治療標的を同定するための貴重なツールであることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね計画通りに進展した。申請時にS細胞を傷害する薬剤のスクリーニングを計画していたが、従来のIC50を指標にしたアッセイ法では目的とする薬剤を抽出することは困難と考え、計画を変更してCRISPR/CAS9による遺伝的スクリーニングを行った。緩慢増殖細胞に特異的な生存必須遺伝子を同定することができるかどうか、つまり、急速増殖細胞、さらには正常細胞にも必須の遺伝子が抽出される恐れもあったが、DepMapデータベースを用いてユビキタスに細胞傷害する遺伝子を除外したことにより、高確率で緩慢増殖細胞に特異的な生存必須遺伝子の同定に成功した。候補遺伝子を得たことは本研究の特筆すべき成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
患者由来のCRCオルガノイドから緩慢増殖細胞を分離することに成功し、CRISPRドロップアウト・スクリーニング・プラットフォームを確立したことを踏まえ、以下のような実験を計画している。まず、これまでに同定したCRCの緩慢増殖細胞に必須である候補遺伝子の機能的役割を、緩慢増殖細胞で検証する。さらに、親CRCオルガノイドにおいても、遺伝的および薬理学的阻害実験を行う。特に5-FU併用で5-FUの増感作用があるかを検証する。次にin vivoにおける効果を検討する。親CRCオルガノイドを移植した担癌マウスを阻害剤で治療し、単剤による効果と5-FU併用を検証する。阻害剤のない遺伝子については、親CRCオルガノイドでノックアウトし、同様の実験を行う。その後、irinotecan, oxaliplatin等の抗がん剤、およびcetuximab等分子標的治療薬について、同様の増感効果が得られるかどうか検証する。また、多数の患者由来オルガノイドで効果に患者間多様性があるかどうかを検証する。以上の研究によって、分離された緩慢増殖細胞が新しい治療標的を同定するための貴重なツールであることが実証される。また、候補遺伝子がなぜ緩慢増殖細胞で特異的に生存に必須であるのかを分子生物学的に明らかにする。候補遺伝子のノックダウン前後の遺伝子発現解析を行い、細胞死の形態、分子経路を明らかにする。これらメカニズムの解析は、さらに有効な標的を探索するための貴重な情報を提供すると考えられる。
|
Causes of Carryover |
最終年度に、in vitroで効果のあった候補薬剤をin vivoで検証するために、多数の免疫不全マウスを購入するため。
|